【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる
第10話
○場所:羽花の自室/時間:夜
夜になり、ベッドに横たわって顔を覆う羽花。
羽花(どうしよう)
(キスしちゃった)
(人生初の)
(キス…………)
頭の中が希一のことでいっぱい。
→前話のキスのシーンを思い出す。
→顔がぶわわわっと熱くなる。
羽花「うああぁぁぁ〜〜〜っ」
→思い出すたび顔を覆ってゴロゴロ。
真っ赤な顔でぬいぐるみをぎゅっとだきしめる。
羽花(ううう、希一くん、なんでわたしにキスなんて……)
(やっぱり、わたしのこと好きとか……だって、好きでもない女の子にキスする? するの?)
(これは自惚れてもいいやつだよね?)
(いや、でも……うう~~~~っ)
耐えきれず、充電が復活したスマホを手に取ってポチポチと検索に文字を打ち込む。
→『キスされた 付き合ってない』 検索。
→「遊ばれてる」「体目的」「ノリと勢い」「別に好きじゃなくてもキスできる」「チョロい女と思われてる」とか散々な言われっぷりの答えが出てくる。
→ガーン、とショックを受けて画面を閉じ、布団の中へもぐる。
羽花(体目的……ノリと勢い……チョロい女……)
(……そうか……そうなんだ……キスされたからって、必ずしもわたしのこと好きとは限らないんだ……)
(でも、希一くんはわたしの心を弄んだりなんか……)
(うぅ~~~……)
結局、悶々として布団の中でゴロゴロ。
→その夜はあんまり眠れなかった。
○二日後。場所:学校の教室。
羽花(うぅ……土日の間、考えすぎてあんまり眠れなかった……)
(バイトでも失敗しまくったし……はあ……)
寝不足のまま登校。
→バイト先の喫茶店で失敗している様子の回想を軽く描写。(コーヒー豆を挽かずにそのままお湯かけてたりなど)
→自分の席でぼーっとしていると、朋音と真綾がやってくる。
朋音「羽花、おはよ! この前、大丈夫だった? 先に帰ったみたいだったけど」
真綾「ほんと心配したよ〜。いつの間にかはぐれていなくなってたし」
羽花「あ、二人とも……ごめんね、心配かけて」
朋音「いやいや、こっちも気づいてやれなくてごめん。よく考えたら様子おかしかったもんね、少し前から」
真綾「体調悪いなら、無理せず言ってよね〜? まったくもう」
羽花「体調……?」
(あ、体調不良で帰ったってことにしてくれたのかな)
真綾「うん、体調悪いから先に帰ったって聞いたよ? 希一くんから。ね、トモちゃん」
朋音「そうそう。希一くんも心配してた。ほんと無理しないでよね」
羽花「うん……」
(……〝希一くん〟……)
いつの間にか〝希一くん〟呼びになっている二人。
→おそらく体育祭で羽花がいなくなったあと、希一と関わって名前を教えてもらったのだろうと考えてちょっとモヤモヤ。
→先日検索したサイトに書いてあった「遊ばれてる」「ノリと勢い」「別に好きじゃなくてもキスできる」みたいな書き込みも思い出して、さらにモヤモヤ。
羽花(希一くんが、トモちゃんやマーちゃんとすごく仲良くなったら、二人にもノリと勢いでキスしたりするのかな……)
(そ、それ、すごいやだ……)
羽花は不安になって青ざめる。
朋音と真綾は首を傾げる。
朋音「羽花? 顔色悪くない?」
真綾「まだ体調悪いの?」
羽花「あ……う、ううん! ちょっと寝不足で……」
真綾「えーっ、大丈夫!? あっ、確かに目元にクマちゃんが! コンシーラー貸そうか?」
朋音「バイトにシフト減らしなよ、羽花。アンタ頑張りすぎるところあるんだから」
羽花「あはは……大丈夫だよ。二人とも、ありがと」
笑ってモヤモヤをごまかす。
すると、朋音が「あ、そうだ」と身を乗り出す。
朋音「この前の体育祭で、タメの男子の何人かと仲良くなってさ。来週みんなで一緒に遊園地行くことにしたんだけど、羽花も行こうよ」
羽花「え……でも、わたし、その人たちのこと知らないし……」
真綾「大丈夫だよ〜。ほら、羽花は希一くん呼べばいいの! 一応みんなで行くけど、二人はこっそりグループの中を抜け出して、二人だけでデートしてもいいし〜」
羽花「う……」
顔を赤くする羽花に、二人はニヤニヤ。
朋音「まあまあ、一旦誘ってみな? 来るって言われたら、羽花も行くでしょ?」
羽花「う、うん……」
真綾「羽花ちゃん、真っ赤になっちゃって可愛い~」
羽花は恥ずかしそうにしつつ、スマホを手に取って希一とのトーク画面へ。
→【あの】と打ったらすぐに既読がつく。
「すぐ既読ついた!」って考えてドキドキ。
〈トーク画面〉------
羽花【あの】7:45
【(チラッ、的なスタンプ)】7:45
希一【なに】7:46
【(変なスタンプ)】7:46
羽花【来週みんなで遊園地いくの】7:48
【ですが】7:48
【希一くんもこない?】7:49
希一【みんなって誰?】7:49
羽花【トモちゃんと】7:50
【マーちゃんと】7:50
【他は知らない……】7:50
希一【なんじゃそりゃ】7:51
羽花【男の子が何人か来るとしか】7:52
希一【行く】7:52
〈トーク画面終了〉------
羽花「……行くって!」
朋音「男の影をチラつかせたらソッコーで食いついたか」
真綾「あらま、可愛い〜」
ニヤつく二人の傍ら、羽花は頬を赤らめてそわそわ。
すると、続けて希一からメッセージが届く。
希一【てか今日、会える?】
【シャンプーモデル】
【またお願いしたいんだけど】
羽花(……!!)
羽花は談笑している朋音たちからサッとスマホの画面を隠し、こっそり返事する。
〈トーク画面〉------
羽花【うん、いいよ!】7:55
【(可愛いスタンプ)】7:55
希一【(変なスタンプ)】7:56
【今日、月曜で店休みだから】7:56
【店の前でまってて】7:56
【てかそろそろ先生くる】7:57
【またあとで】7:57
羽花【はい!】7:58
〈トーク画面終了〉------
羽花(……今日、会える……)
「……ふへへ……」
羽花はスマホを見つめ、ついニヤける。
→その様子に朋音と真綾が目を細め、「ありゃー、やっぱ体調おかしいわ」「恋煩いかな〜」などと言い合っていた。
○場面転換/宮瀬美容室前
羽花(やばい、緊張してきた)
(どんな顔して会おう……)
そわそわ、そわそわ。
落ち着かない様子で髪の毛をいじりながら、宮瀬美容室の前で待つ。
→しばらくして、希一がやってくる。
羽花(あ、やばい、来た)
(どうしよう、胸が、おかしく)
希一「……藤村さん」
羽花「あっ、は、はいっ!」
希一「声でか」
フッ、と短く笑われ、羽花はみるみる恥ずかしさで赤くなる。
おずおずと顔を上げると、いつもと変わらない希一の姿。
→だが、いつもよりかっこよく見えて、胸がきゅんと締めつけられる。
羽花「……」
希一「鍵開けるから、中入ろ」
羽花「……う、うん……」
希一「てか、藤村さん、なんか目の下にクマある? 寝不足?」
羽花の目の下のクマに気づいた希一。
希一の指は羽花の目元に触れ、ずいっと顔も近付く。
→その瞬間、キスのことを思い出し、ボッ、と顔が赤くなる羽花。
羽花「ひゃ……!!」
露骨に意識して大袈裟にたじろぐ。
希一はぽかんとしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
希一「ん? 何されると思った?」
羽花「い、いや……あの……」
希一「何もしねーよ、ばーか」
楽しげに悪態をつき、店の鍵を開ける希一。
→羽花は恥ずかしそうに唇を尖らせつつ、店の中へ。
○場面転換/場所:宮瀬美容室
静かな店の中で、シャンプーをしてもらった羽花。
髪を乾かしてもらいながら、ウトウト。
何度も船を漕いでいると、希一からツンとほっぺをつつかれる。
→ハッと目を開ける。
希一「こら、起きろ。今からアイロンするから。ウトウトしてるとヤケドする」
羽花「……んん……うん……」
希一「おーい、また寝てるって。藤村さん」
羽花「んー……」
希一「……起きないとキスするけど」
ドライヤーを切り、眠たそうな羽花の耳に唇を押し付けて、低く囁きかける。
羽花はビクッと肩を震わせ、耳を手で塞ぎながら目を開いた。
希一「あ、起きた」
羽花「……っ」
希一「おはよ」
羽花「お、お、おはよう……」
恥ずかしくて俯く羽花。
希一はニヤニヤ。
希一「んー? 顔が赤いですよ、お客様」
羽花「き、き、気のせいです……」
希一「そっか〜」
希一は上機嫌な様子で髪に指を通す。
羽花は目を覚ましたようだが、まだ眠たげに目を擦っている。
希一「はいはい、眠いのはわかるけど、俺にキスされたくなかったらそのまま起きてて。アイロン使ってると危ないから」
羽花「……う、うん……起きる、けど」
希一「けど?」
羽花「別に、されたくないわけじゃ……」
寝ぼけ眼でそこまで言うと、希一が黙って羽花を見つめる。
羽花はハッとして、だらだらと冷や汗。
羽花(わ、わ、わたし、今、寝ぼけてとんでもないこと言わなかった!?)
希一「……」
羽花(ほ、ほら! 希一くんも黙ってるし! 引かれた……!?)
赤くなったり青くなったりしていると、希一は黙ったまま、羽花の唇に指先で触れる。
びく、と震える羽花。
ゆっくり振り返ると、直接目が合う。
希一「俺、あんま賢くないからさ、そういうこと言われると本気にするけど」
羽花「……っ」
希一「……いいの?」
真剣な目で見つめてくる希一。
指先で唇をなぞられた羽花は、ドキドキと心臓を打ち鳴らし、目を泳がせながら、「いいよ……」と答える。
希一「……」
希一は目を細め、ゆっくりと羽花に顔を近づけ始めた。
羽花(あ、これ、ほんとにキスされる、かも)
息をのみ、希一の口付けを受け入れようと覚悟を決める羽花。
→その時、羽花の視界には目の前の鏡が入り込む。
→そこに映っている羽花は、乾かしたばかりで髪が広がり、毛の一本一本がクルクルと縮れた、〝魔法が解けた〟姿だった。
→その瞬間、羽花は我にかえる。
羽花(……!)
ゾッ、と背筋に悪寒が走る。
鏡の中にいる魔法の解かれた自分が、まるでメデューサのような気持ち悪い化け物に見えてしまった。
同時に、脳裏には昔のトラウマがなだれ込んでくる。
『変な髪』
『隣を歩くの恥ずかしい』
『よく普通に出歩けるよね』
『あんなのと付き合える?』
『あんなのとキスできる?』
『きもちわるいよ』
『きもちわるいね』
『きもちわるい』
↑被害妄想みたいな感じで、自分が作り出した幻聴みたいなのも混じっている。
どんどん青ざめて息を呑む。
羽花(だめ)
(こんな気持ち悪い髪のまま、キスなんかされちゃだめ……!!)
背中が一瞬で冷たくなり、羽花は咄嗟に自分の口元を手で隠す。
→突然キスが拒まれ、目を見開く希一。
シン、と沈黙が流れる。
羽花「あの……ご、ごめん……」
希一「……」
羽花「……わたし、やっぱり……」
羽花は青ざめ、手が微かに震えている。
→明らかに拒絶されている。
→希一はいささか傷付いたような表情で眉をひそめ、目をそらす。
希一「……あっそ」
羽花「あ……」
希一「まあ、今ので目ぇ覚めたろ。もう寝んなよ」
どこかそっけなく吐き捨て、希一は再び作業に戻る。
羽花は少し後悔する。
羽花(どうしよう、やってしまった)
(でも……こんな髪の毛のわたしにキスさせるなんて……)
(だめだよ……)
羽花は俯き、自分の殻に閉じこもる。
結局気まずいまま、二人の時間は過ぎ去っていった。
〈第10話 終わり〉
夜になり、ベッドに横たわって顔を覆う羽花。
羽花(どうしよう)
(キスしちゃった)
(人生初の)
(キス…………)
頭の中が希一のことでいっぱい。
→前話のキスのシーンを思い出す。
→顔がぶわわわっと熱くなる。
羽花「うああぁぁぁ〜〜〜っ」
→思い出すたび顔を覆ってゴロゴロ。
真っ赤な顔でぬいぐるみをぎゅっとだきしめる。
羽花(ううう、希一くん、なんでわたしにキスなんて……)
(やっぱり、わたしのこと好きとか……だって、好きでもない女の子にキスする? するの?)
(これは自惚れてもいいやつだよね?)
(いや、でも……うう~~~~っ)
耐えきれず、充電が復活したスマホを手に取ってポチポチと検索に文字を打ち込む。
→『キスされた 付き合ってない』 検索。
→「遊ばれてる」「体目的」「ノリと勢い」「別に好きじゃなくてもキスできる」「チョロい女と思われてる」とか散々な言われっぷりの答えが出てくる。
→ガーン、とショックを受けて画面を閉じ、布団の中へもぐる。
羽花(体目的……ノリと勢い……チョロい女……)
(……そうか……そうなんだ……キスされたからって、必ずしもわたしのこと好きとは限らないんだ……)
(でも、希一くんはわたしの心を弄んだりなんか……)
(うぅ~~~……)
結局、悶々として布団の中でゴロゴロ。
→その夜はあんまり眠れなかった。
○二日後。場所:学校の教室。
羽花(うぅ……土日の間、考えすぎてあんまり眠れなかった……)
(バイトでも失敗しまくったし……はあ……)
寝不足のまま登校。
→バイト先の喫茶店で失敗している様子の回想を軽く描写。(コーヒー豆を挽かずにそのままお湯かけてたりなど)
→自分の席でぼーっとしていると、朋音と真綾がやってくる。
朋音「羽花、おはよ! この前、大丈夫だった? 先に帰ったみたいだったけど」
真綾「ほんと心配したよ〜。いつの間にかはぐれていなくなってたし」
羽花「あ、二人とも……ごめんね、心配かけて」
朋音「いやいや、こっちも気づいてやれなくてごめん。よく考えたら様子おかしかったもんね、少し前から」
真綾「体調悪いなら、無理せず言ってよね〜? まったくもう」
羽花「体調……?」
(あ、体調不良で帰ったってことにしてくれたのかな)
真綾「うん、体調悪いから先に帰ったって聞いたよ? 希一くんから。ね、トモちゃん」
朋音「そうそう。希一くんも心配してた。ほんと無理しないでよね」
羽花「うん……」
(……〝希一くん〟……)
いつの間にか〝希一くん〟呼びになっている二人。
→おそらく体育祭で羽花がいなくなったあと、希一と関わって名前を教えてもらったのだろうと考えてちょっとモヤモヤ。
→先日検索したサイトに書いてあった「遊ばれてる」「ノリと勢い」「別に好きじゃなくてもキスできる」みたいな書き込みも思い出して、さらにモヤモヤ。
羽花(希一くんが、トモちゃんやマーちゃんとすごく仲良くなったら、二人にもノリと勢いでキスしたりするのかな……)
(そ、それ、すごいやだ……)
羽花は不安になって青ざめる。
朋音と真綾は首を傾げる。
朋音「羽花? 顔色悪くない?」
真綾「まだ体調悪いの?」
羽花「あ……う、ううん! ちょっと寝不足で……」
真綾「えーっ、大丈夫!? あっ、確かに目元にクマちゃんが! コンシーラー貸そうか?」
朋音「バイトにシフト減らしなよ、羽花。アンタ頑張りすぎるところあるんだから」
羽花「あはは……大丈夫だよ。二人とも、ありがと」
笑ってモヤモヤをごまかす。
すると、朋音が「あ、そうだ」と身を乗り出す。
朋音「この前の体育祭で、タメの男子の何人かと仲良くなってさ。来週みんなで一緒に遊園地行くことにしたんだけど、羽花も行こうよ」
羽花「え……でも、わたし、その人たちのこと知らないし……」
真綾「大丈夫だよ〜。ほら、羽花は希一くん呼べばいいの! 一応みんなで行くけど、二人はこっそりグループの中を抜け出して、二人だけでデートしてもいいし〜」
羽花「う……」
顔を赤くする羽花に、二人はニヤニヤ。
朋音「まあまあ、一旦誘ってみな? 来るって言われたら、羽花も行くでしょ?」
羽花「う、うん……」
真綾「羽花ちゃん、真っ赤になっちゃって可愛い~」
羽花は恥ずかしそうにしつつ、スマホを手に取って希一とのトーク画面へ。
→【あの】と打ったらすぐに既読がつく。
「すぐ既読ついた!」って考えてドキドキ。
〈トーク画面〉------
羽花【あの】7:45
【(チラッ、的なスタンプ)】7:45
希一【なに】7:46
【(変なスタンプ)】7:46
羽花【来週みんなで遊園地いくの】7:48
【ですが】7:48
【希一くんもこない?】7:49
希一【みんなって誰?】7:49
羽花【トモちゃんと】7:50
【マーちゃんと】7:50
【他は知らない……】7:50
希一【なんじゃそりゃ】7:51
羽花【男の子が何人か来るとしか】7:52
希一【行く】7:52
〈トーク画面終了〉------
羽花「……行くって!」
朋音「男の影をチラつかせたらソッコーで食いついたか」
真綾「あらま、可愛い〜」
ニヤつく二人の傍ら、羽花は頬を赤らめてそわそわ。
すると、続けて希一からメッセージが届く。
希一【てか今日、会える?】
【シャンプーモデル】
【またお願いしたいんだけど】
羽花(……!!)
羽花は談笑している朋音たちからサッとスマホの画面を隠し、こっそり返事する。
〈トーク画面〉------
羽花【うん、いいよ!】7:55
【(可愛いスタンプ)】7:55
希一【(変なスタンプ)】7:56
【今日、月曜で店休みだから】7:56
【店の前でまってて】7:56
【てかそろそろ先生くる】7:57
【またあとで】7:57
羽花【はい!】7:58
〈トーク画面終了〉------
羽花(……今日、会える……)
「……ふへへ……」
羽花はスマホを見つめ、ついニヤける。
→その様子に朋音と真綾が目を細め、「ありゃー、やっぱ体調おかしいわ」「恋煩いかな〜」などと言い合っていた。
○場面転換/宮瀬美容室前
羽花(やばい、緊張してきた)
(どんな顔して会おう……)
そわそわ、そわそわ。
落ち着かない様子で髪の毛をいじりながら、宮瀬美容室の前で待つ。
→しばらくして、希一がやってくる。
羽花(あ、やばい、来た)
(どうしよう、胸が、おかしく)
希一「……藤村さん」
羽花「あっ、は、はいっ!」
希一「声でか」
フッ、と短く笑われ、羽花はみるみる恥ずかしさで赤くなる。
おずおずと顔を上げると、いつもと変わらない希一の姿。
→だが、いつもよりかっこよく見えて、胸がきゅんと締めつけられる。
羽花「……」
希一「鍵開けるから、中入ろ」
羽花「……う、うん……」
希一「てか、藤村さん、なんか目の下にクマある? 寝不足?」
羽花の目の下のクマに気づいた希一。
希一の指は羽花の目元に触れ、ずいっと顔も近付く。
→その瞬間、キスのことを思い出し、ボッ、と顔が赤くなる羽花。
羽花「ひゃ……!!」
露骨に意識して大袈裟にたじろぐ。
希一はぽかんとしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
希一「ん? 何されると思った?」
羽花「い、いや……あの……」
希一「何もしねーよ、ばーか」
楽しげに悪態をつき、店の鍵を開ける希一。
→羽花は恥ずかしそうに唇を尖らせつつ、店の中へ。
○場面転換/場所:宮瀬美容室
静かな店の中で、シャンプーをしてもらった羽花。
髪を乾かしてもらいながら、ウトウト。
何度も船を漕いでいると、希一からツンとほっぺをつつかれる。
→ハッと目を開ける。
希一「こら、起きろ。今からアイロンするから。ウトウトしてるとヤケドする」
羽花「……んん……うん……」
希一「おーい、また寝てるって。藤村さん」
羽花「んー……」
希一「……起きないとキスするけど」
ドライヤーを切り、眠たそうな羽花の耳に唇を押し付けて、低く囁きかける。
羽花はビクッと肩を震わせ、耳を手で塞ぎながら目を開いた。
希一「あ、起きた」
羽花「……っ」
希一「おはよ」
羽花「お、お、おはよう……」
恥ずかしくて俯く羽花。
希一はニヤニヤ。
希一「んー? 顔が赤いですよ、お客様」
羽花「き、き、気のせいです……」
希一「そっか〜」
希一は上機嫌な様子で髪に指を通す。
羽花は目を覚ましたようだが、まだ眠たげに目を擦っている。
希一「はいはい、眠いのはわかるけど、俺にキスされたくなかったらそのまま起きてて。アイロン使ってると危ないから」
羽花「……う、うん……起きる、けど」
希一「けど?」
羽花「別に、されたくないわけじゃ……」
寝ぼけ眼でそこまで言うと、希一が黙って羽花を見つめる。
羽花はハッとして、だらだらと冷や汗。
羽花(わ、わ、わたし、今、寝ぼけてとんでもないこと言わなかった!?)
希一「……」
羽花(ほ、ほら! 希一くんも黙ってるし! 引かれた……!?)
赤くなったり青くなったりしていると、希一は黙ったまま、羽花の唇に指先で触れる。
びく、と震える羽花。
ゆっくり振り返ると、直接目が合う。
希一「俺、あんま賢くないからさ、そういうこと言われると本気にするけど」
羽花「……っ」
希一「……いいの?」
真剣な目で見つめてくる希一。
指先で唇をなぞられた羽花は、ドキドキと心臓を打ち鳴らし、目を泳がせながら、「いいよ……」と答える。
希一「……」
希一は目を細め、ゆっくりと羽花に顔を近づけ始めた。
羽花(あ、これ、ほんとにキスされる、かも)
息をのみ、希一の口付けを受け入れようと覚悟を決める羽花。
→その時、羽花の視界には目の前の鏡が入り込む。
→そこに映っている羽花は、乾かしたばかりで髪が広がり、毛の一本一本がクルクルと縮れた、〝魔法が解けた〟姿だった。
→その瞬間、羽花は我にかえる。
羽花(……!)
ゾッ、と背筋に悪寒が走る。
鏡の中にいる魔法の解かれた自分が、まるでメデューサのような気持ち悪い化け物に見えてしまった。
同時に、脳裏には昔のトラウマがなだれ込んでくる。
『変な髪』
『隣を歩くの恥ずかしい』
『よく普通に出歩けるよね』
『あんなのと付き合える?』
『あんなのとキスできる?』
『きもちわるいよ』
『きもちわるいね』
『きもちわるい』
↑被害妄想みたいな感じで、自分が作り出した幻聴みたいなのも混じっている。
どんどん青ざめて息を呑む。
羽花(だめ)
(こんな気持ち悪い髪のまま、キスなんかされちゃだめ……!!)
背中が一瞬で冷たくなり、羽花は咄嗟に自分の口元を手で隠す。
→突然キスが拒まれ、目を見開く希一。
シン、と沈黙が流れる。
羽花「あの……ご、ごめん……」
希一「……」
羽花「……わたし、やっぱり……」
羽花は青ざめ、手が微かに震えている。
→明らかに拒絶されている。
→希一はいささか傷付いたような表情で眉をひそめ、目をそらす。
希一「……あっそ」
羽花「あ……」
希一「まあ、今ので目ぇ覚めたろ。もう寝んなよ」
どこかそっけなく吐き捨て、希一は再び作業に戻る。
羽花は少し後悔する。
羽花(どうしよう、やってしまった)
(でも……こんな髪の毛のわたしにキスさせるなんて……)
(だめだよ……)
羽花は俯き、自分の殻に閉じこもる。
結局気まずいまま、二人の時間は過ぎ去っていった。
〈第10話 終わり〉