【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる

第11話


羽花(モノローグ):
 ──希一くんと、変な空気になって、気まずいまま、
 ──今日が来てしまった。


○場所:遊園地の入り口前

真綾「へーい、かもーん! みんなお揃いで〜っ!?」

テンション高めの真綾。
その場には私服姿で、男女合わせて7人がいる。

 男子側:希一、モブ1、モブ2。
 女子側:羽花、朋音、真綾、来栖先輩。

 ↑来栖先輩だけ特殊演出みたいな感じで、キラキラ感増しで描写。

羽花「……ちょっと……なんで来栖先輩が……」
朋音「え、だって向こうが男四人来るって話だったからさ。こっちも四人必要かなって」
真綾「そう〜! ダメ元で頼んだら来てくれたんだ〜っ」
来栖「ハッハ〜! かわい子ちゃんに頼まれたら断れない性分でね!」
真綾「きゃ〜っ♡」

私服の来栖先輩のイケメンオーラが凄すぎて、モブ男子たちがやや気後れ気味。
 →希一は少し前に来栖先輩に暴言を吐いて以来なので、一段と気まずそう。
 →来栖先輩は、目を逸らしている希一を見てニッコリ。
 →希一はギクリ。

来栖「やあやあ、藤村さんのお友達じゃないか! 先日はどうも! また会えて嬉しいよ!」
希一「……や……その……。この前はほんと、色々とすみません……」
来栖「ふふっ、もう気にしていないさ。昨日の敵は今日の友! 明日の敵も今日は友! 同じ友を持つ〝男〟同士、過去のことはお互い水に流そうじゃないか〜!」
希一「あー、あの……悪いんすけど、その真相ももう聞いたんで……。アンタが女の人だってこと……」
来栖「おや、なんだ。もうバレてしまっていたのか。つまらないな」
  「せっかく君たちの反応を見て遊……いやいや今後の参考にしようと思ってたのに」
希一(何が今後の参考だよ、人で遊びやがって……)

イラッとする希一だが、暴言は飲み込んで、「そっすね~……」と適当に返す。
 →そのままチラッと羽花を見る。
  めずらしく私服姿で、いつもと雰囲気が違う。
  じっと見ていると、視界にヌッと来栖先輩が割り込んでくる。

希一「うわ、ちょっ、何……」
来栖「可愛いだろう?」
希一「……は?」
来栖「藤村さん」
希一「…………別に」
来栖「ハッハ〜、素直じゃないなあ〜?」
希一「いや、そうじゃなくて」
  「昔から知ってるし。可愛いこと」

さも当然とばかりに答える希一。
 →まさかの返答に来栖先輩が衝撃を受ける。(なんか強烈な後光を浴びて眩しがってるみたいな描写)
 →よろめきながら戦慄する先輩。

来栖「な、なんてことだ、この私が……! 愛のオーラに屈してよろめくとは……!」
希一「は?」
来栖「くっ、鍛錬不足か! アオハル恐るべし……!」
希一(マジでずっと何言ってんだこの人……)

希一はおかしな言動ばかり繰り返す来栖先輩を呆れた目で見下ろす。
 →少し離れた場所からその二人の様子をチラチラ見て、羽花はハラハラ。

羽花(ふ、二人で何の話をしてるんだろう……。なんかちょっとモヤモヤしちゃう……。心狭いかも、わたし……)
朋音「あれ? ねえ、男子、あと一人足りなくない?」
モブ「ん? ああ、なんか電車乗り過ごして遅れるって。そろそろ着くって言ってたけど──」
??「──悪い!! 遅くなった!!」

遅刻した男子が走ってやってくる。
 →振り向くと、そこにいたのは大輝。

大輝「え?」
希一「あ?」
羽花「へ?」

三人「「「……!?」」」

三人揃って驚愕。
互いに顔を見合わせ、唖然として固まる。
 →そんな中、真綾たちは「あ、これで全員揃ったね〜!」と呑気。

真綾「よし、それじゃ、さっそく行こっ! ゴーゴー!」
朋音「楽しみ〜」
モブ「ジェットコースター全制覇しようぜ」
モブ2「お化け屋敷もな!」
来栖「ふふっ、メリーゴーランドの白馬は私のものだよ」

ワイワイと談笑しつつ、遊園地の中へ向かう他のメンバー。
一方、三人は無言で重い空気に。

三人「「「……」」」

希一「……いや、なんでお前がいんだよ」
大輝「それは俺のセリフだわ。なんでお前らが」
希一「俺はクラスのヤツも来るって聞いたから」(モブ1のこと)
大輝「俺はサッカー部のヤツが来るって聞いたから」(モブ2のこと)
希一「……」
大輝「……」
羽花「…………」

睨み合う二人と、俯いて何も言わない羽花。
大輝はちらりと羽花を一瞥するが、目も合わせてもらえず、少し複雑そうな表情をして顔を逸らす。

大輝「……安心しろよ、お前らのデートの邪魔する趣味はねえから」
  「ラブラブカップルに割り込むほど女に困ってませーん。それじゃさよなら」

大輝はわざとらしく肩をすくめ、二人の元を離れ、前を歩く集団と合流する。
 →希一は眉根を寄せて大輝の背中を睨んだあと、羽花へと視線を移す。

希一「……大丈夫?」
羽花「……うん……」
希一「アイツと回るのイヤなら、俺も一緒に帰るけど」
羽花「う、ううん、大丈夫。せっかくバイトのお休みもらったし、わたしの友達も楽しみにしてたし」
  「……ちょっと、心の準備ができてなかっただけ……大丈夫」

羽花は深呼吸し、顔を上げて希一へ視線を向ける。
 →ついでに、先日の件を謝ろうと考えて口を開く。

羽花「希一くん、あの……」
希一「ん?」
羽花「この前のことなんだけど、あの時は、本当に……」
希一「あー、やめやめ。その話はいい。聞きたくないから」
羽花「あ……」

ふいっと顔を逸らされ、希一が前を歩き出す。
ぽつんと残された羽花。
 →眉尻を下げて視線を落とす。

羽花(なんか……前よりも……)
  (距離ができちゃってる……ような)

遠くへ行ってしまった希一の背中を見つめ、切なげに俯く描写。
 →自分の髪の毛先を手に取って見つめる。

羽花(絶対わたしのせいだよね……)
  (この前、希一くんのキスを拒否しちゃったから……?)
  (あーあ……もう……うまくいかないなあ……)

→髪の毛がストレートじゃないと、自分に自信が出ないことに気づいている。
 このままじゃいけないこともわかっている。
 強くなりたいと思うのに、いつも、あの髪の毛が邪魔をする。

羽花(モノローグ):

 ──わたしはやっぱり、まだ、わたしのことが嫌いなままだ。


○場面転換:遊園地内部

いろんなアトラクションに乗って遊ぶ様子のダイジェスト。
 ・ジェットコースターの写真の写りが来栖先輩だけ異様にキメ顔だったり。
 ・お化け屋敷にあんまり羽花がびびらなかったり。(朋音と真綾が羽花にひっついてる)
 ・頭にみんなでウサ耳のカチューシャ乗せたり。
 ・チュロス食べたり。
 ・たくさん写真撮ったり。

〜時間経過〜

朋音「はー、色々回ったね〜」
真綾「たのし〜!」
羽花「ふふっ、写真もたくさん撮ったね」

楽しんでいる一行。
 →だが、羽花はチラチラと希一の方をうかがう。
 →あまり目が合わず、少し残念そうな顔をする羽花。

真綾「ねえねえっ、次はあの水に落ちていくヤツ乗ろうよ!」
羽花「えっ……」

不意に真綾が指差したのは、ウォータースライダー的な乗り物。(最後に水をブワーってかぶるやつ)
 →羽花は頬を引きつらせる。(水に濡れると髪がうねるから)

羽花「あ……わ、わたしは大丈夫。ちょっと、乗り物たくさん乗りすぎて、微妙に気分悪いし……」
真綾「え、大丈夫? じゃあ違うのにしよっか?」
羽花「ううん、いいよ、みんなで行ってきて! わたし、この辺に座って休憩しとくから」
真綾「でも一人じゃ……」
大輝「あ、じゃあ、俺が──」
希一「──俺が残る」

何か言いさした大輝を遮り、希一が羽花側につく。(ドキッとする羽花)
すると、真綾と朋音がハッと顔を見合わせる。
 →ピーンときた感じの顔。(二人をくっつけるチャンス! みたいな)

来栖「ああ、だったら私も残ろ──むぐっ」
朋音「そっか〜! そうだよねえ〜! うんうん!」
真綾「希一くんが見ててくれるなら安心だねっ! うんうんうんっ! ほら、みんな行こ〜!」

空気を読めない(読まない)来栖先輩を二人が取り押さえ、希一と羽花以外はウォータースライダーの方へ。
 →ファイト! みたいな顔で親指を立てる朋音と真綾。苦笑いの羽花。
 →大輝は何か言いたげに羽花たちを見ていたが、顔を逸らし、二人の元を離れていく。

羽花(トモちゃんたち、気を遣ってくれたんだろうな……)
  (でも、希一くんと二人きりで大丈夫かな、今のわたし)
希一「とりあえず、どっか座ろ。疲れた」
羽花「あ……う、うん」

二人で並んで歩き、木陰のベンチへ。


○場所:ベンチ

羽花「……けっこう人が多いね」
希一「まあ、連休だし。そりゃ多いだろ」
羽花「うん……」

いつもより会話がぎこちない。

羽花(う……気まずい……空気が重い……)
  (やっぱり、この前のこと怒ってるのかな)
  (……でも、怒ってるのに、今は一緒にいてくれるんだ……)

ちら、と隣の希一を見る。
 →ラフな私服姿。(パーカー、キャップ、スニーカー)
 →(私服なのレアだな、かっこいいな……)みたいな感じで、ぽやっと見惚れる。
 →目が合う。

希一「……何?」
羽花「え? あ、え、ええと、私服なの初めて見たと思って」
希一「ああ……まあ、それはお互い様だけど」
羽花「そ、そうだね、あはは……」
  (やばい、会話終わる! 会話! 会話しなきゃ!)

羽花は必死に何か話題を探す。
 →脳裏に浮かんだのは大輝のこと。

羽花「そ、そういえば、あの……ダイくん、なんだけど」
希一「!」
羽花「田舎にいたはずなのに、なんで、ダイくんまでこの街にいるのかな……? 希一くんは、ずっと知ってた? ダイくんがこの辺りにいること」
希一「……俺も詳しくは知らねーよ、普段全然話さねーし。高校入学したらたまたまいた」
羽花「じゃあ、希一くんも、この一年以内にダイくんと再会したばっかりってこと? そのわりには、すでに仲が悪そうなんだけど……」
希一「何言ってんの、小学校の時からずっと仲悪かったよ。お前ほどじゃないけど、俺も、大輝とはそこそこ因縁あるし」
羽花「因縁?」

首を傾げる羽花。
希一はため息まじりに過去を語る。

希一「俺、実家が美容室で、しっかり美容師目指してんじゃん? でも、ガキの頃は美容師になんか絶対なりたくねーって思ってたの」
羽花「え……そうなの? 意外……」
希一「うん。まあ、兄貴が店継いでくれりゃいいって思ってたのもあるけど、それだけじゃなくて──」
  「大輝に、ずっとバカにされてたんだよ。『モテない男の3Bだ!』とかなんとか、ガキくせー言葉で」

昔を思い出しながら、フッと鼻で笑う希一。
羽花はきょとんとする。

希一「知ってる? 〝モテない男の3B〟って。彼氏にしたくない職業みたいなヤツ」
羽花「えっと……バンドマン、バーテンダー、美容師……だっけ? 頭文字にBがつく職業の」
希一「そう。それをどっかで大輝が覚えたらしくてさ、俺ん家が美容室だって知ってるから、10歳ぐらいの頃、そのネタで俺をバカにし始めたんだよ」
羽花(うわあ、すごい想像つく……)
希一「だから俺、美容師ってダサいんだと思って、生まれた家が美容室なのが、最初はすげーイヤだったわけ。絶対美容師なんかならねーと思ってた」
  「でも、いつもみたいにそのネタで大輝にバカにされた時、たまたま、近くにお前がいて……」
  「それで、お前が……」
  「……」

ぽつぽつと語りながら、希一は一瞬黙ったあと、思い出し笑いするように柔らかく口角を上げる。

希一「……お前が、初めて、大輝に怒鳴った」

希一の発言に、羽花はぽかんとしたが、みるみる驚愕。(全然覚えてない)

羽花「……へ!? わたしが!? ダイくんに!?」
希一「そうだよ。めちゃくちゃ怒ってた。すげー勢いで大輝に掴みかかって」
羽花「えええ!? そんなに!? 全然覚えてな……っ、な、なんて言って怒鳴ってたの、わたし……」
希一「〝美容師をバカにするな〟って。〝あの人たちは誰かを綺麗にする魔法をかけるすごい人たちなんだ〟って」
  「そう言って怒ってたよ」

懐かしむように目を細める希一。
 →怒っている羽花と掴み合いになる大輝の過去の情景を簡単に描写。

羽花は(確かに、なんかそんなことあったかも……)と考えて恥ずかしそうに目を泳がせる。

希一「お前、どんなに大輝から自分の髪の毛バカにされても言い返さなかったのに、美容師をバカにされたらめちゃくちゃ怒って言い返してさ……」
  「その時のお前の言葉が……俺、すげー嬉しかったの、覚えてるよ」

希一は思い出をしみじみと語り、羽花の肩にこてんともたれかかる。
 →羽花はドキっとして、頬を赤らめ、縮こまる。

希一「俺、きっと、ずっと悔しかったんだろうな。家のことバカにされて、美容師のことバカにされて……でも、本当はダサくなんかないって、心の中では思ってたんだ。それをお前が代わりに言ってくれた」
羽花「……」
希一「あれからお前は、大輝に前よりも髪の毛をバカにされるようになって、そのたび泣いてたけど……」
  「その泣き顔を見た時に、俺、決めたんだ」
  「美容師になろうって。そんで、いつか、お前の髪に──」
  「俺が、魔法、かけてやろうって……」

最後は小さな声でこぼして、希一は羽花の首元に顔を埋める。
 →髪に顔を押し付けるような感じ。
 →羽花はさらに真っ赤に。

希一「……あーあ、また寒いこと言ったな、俺……」
羽花「……」
希一「自分がダサすぎて笑える。この前、お前にキス拒否られたこと、普通にへこんで、アホみてーに引きずって、今ここにいんだよ、俺」
羽花「……」
希一「拒否られて当然なのにさ。……俺ら、付き合ってねーんだし」
羽花「あの……わたし……」

大輝「──今なんて?」

そのタイミングで、ドカッ、と突然羽花の隣に腰かけたのは大輝。
 →羽花はビクッと震え、希一も即座に顔を上げる。

大輝「今、付き合ってないって言った? お前」
希一「……!」
大輝「答えろよ、希一」

大輝は威圧的に問いかけ、希一を睨む。
 →希一は汗を浮かべ、露骨に険しい顔をする。

大輝「否定しないってことは、本当に付き合ってねえんだ。お前ら」
  「へー、なんだ、そうかよ。ふーん……」
希一「……お前、何しに来た」
大輝「何って? ちょっとお話しに来たんだよ、〝羽花〟と」

大輝は希一から目を逸らし、当てつけのように羽花の名前を呼ぶ。
 →煽られた希一はイラっとした顔。
  羽花は息を呑んで目を泳がせる。

大輝「なあ、羽花。いいだろ? ちょっとだけ話そうぜ。俺と二人で」
希一「お前ふざけんな、どっか行けよ」
大輝「うるせえな、部外者は口出すんじゃねえ。お前、コイツの彼氏でもなんでもねえんだろ? だったらしゃしゃり出てくんな、他人様がよ」
希一「あ……?」

眉間にシワをよせる希一。
鼻で笑った大輝は、羽花の手を掴んで立ち上がらせる。
 →羽花は逆らいきれずに立ち上がってしまう。

希一「おい!」
大輝「ほら、行こうぜ羽花。口うるせーのがいてここじゃ話せねえし」
希一「連れていかせるわけねえだろが! 触んじゃねえよ!」
大輝「いいからお前は黙ってろよ、なあ──」

  「──頼むから」

その時、大輝は切実な目で希一を見る。
 →真剣に頼み込むような描写。
すると、それまで牽制していた希一も、ぐっと言葉を呑んで押し黙る。

希一「……」

大輝に掴み掛かろうとしていた手を、ゆるやかに下ろす希一。
大輝は顔を逸らし、戸惑っている羽花と共に背を向ける。

大輝「……すぐ戻るから、そこで指くわえて、少し待ってろ」

羽花は大輝に連れられ、その場を離れる。
希一は複雑な表情で黙ったまま視線を落としたが、大輝のことを追いかけて止めようとはしなかった。

〈第11話 終わり〉
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