【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる

第12話

○場所:遊園地内

キャハハハ、と子どもの笑い声が響く遊園地の描写。
大輝は子どもたちが遊んでいる遊具エリアの近くの適当な壁際にもたれかかる。
羽花は黙って彼について行き、少し距離を取って立ち止まる。

大輝「あーあ、動画とか撮っとけばよかった」
羽花「……?」
大輝「希一の悔しそうな顔。傑作だったろ? あとでその動画見せたら、色々面白い反応が見れそうだったのに」
羽花(……相変わらずいじわるな人だなあ)
大輝「あ、今、俺のこと『相変わらずいじわるなクソ野郎だなー』とか思ったろ。お見通しだぞ」
羽花「えっ、違……っ、く、クソ野郎とまでは、思ってない……」

羽花が小さく答えると、大輝はフッと微笑む。

大輝「……やっと口聞いてくれた」
羽花「!」
大輝「ずっと黙りこくってっから、口が退化して喋れなくなったのかと思ってたわ」
  「ま、そうなって当然のことしたんだけどさ。俺が」

大輝はどこか遠い目をしながら告げる。
 →思いのほかトゲトゲしくない。

羽花(……あ、あれ? なんか、思ったより、そんなに怖く、ない……?)
  (でも、ダイくんだし……警戒しないと……)

羽花はそっと距離をとって、大輝の近くに背をもたれる。
 →近くの広場では小学生ぐらいの子どもが楽しそうに駆け回っている。

大輝「お前が引っ越したのも、多分、あれぐらいの歳の頃だったよな」
羽花「……」
大輝「なあ、藤村」
  「小四の時、お前が引っ越したあと、学校で噂が立ったんだけど……お前知ってる?」
羽花「……噂?」
大輝「『羽花ちゃんが引っ越したのは全部ダイくんが虐めてたせいだ~』って……そんな噂が、広がったの」

そこまで聞いて、羽花は驚いた表情をする。

羽花「え!? ち、違うよ! わたし、親の都合で引っ越しただけで……!」
大輝「知ってる。でもさ、噂が本当かどうかなんて実際どうでもいいんだよ。『アイツならやりかねない』って思われた時点で、俺の負けだ」
羽花「!」
大輝「噂を聞いたヤツら、みんな『やっぱりな』って顔してたよ」
  「その程度が、俺の人望だったわけ」

大輝は自嘲的な笑みを浮かべる。
 →羽花は気まずそうに目をそらす。

大輝「田舎ってこえーよな。良くも悪くも、団結力が強い。ほんの小さな悪評でも、一瞬で地域全体に広まっちまう」
羽花「……」
大輝「俺はみんなに陰口叩かれて、しっかりハブられて孤立した。そのままグレて、ほとんど学校にも行かなくなって、小学校の卒業を機に、田舎を出て……この街に来た」

 ↑小学生時代の大輝がひねくれていく様子を描写。

羽花は眉尻を下げて俯く。

羽花「……だから、わたしのこと、恨んでるって言いたいの……?」
大輝「あー、そうだな、確かにすげー恨んでたよ」
  「ずっとお前のせいにしてた。お前が引っ越さなければこんなことにならなかったのにって。次会ったら、絶対に文句言ってやるって……」
  「……体育祭の時、お前と再会するまでは、そう思ってた」

大輝はそう言いながら羽花を見る。
羽花も大輝と目を合わせる。

大輝「あの体育祭で、お前と偶然再会した時さ、全然責める気になれなかったんだ」
  「だってお前、俺の顔見るだけで、あんなに凍りつくぐらい怖がっててさ……」
羽花「……」
大輝「お前が俺を見た時の目、まるでバケモンでも見るみたいにぐらぐらしてた」
  「その時、俺、初めて自覚したんだよ」
  「自分が悪いことをしたんだって。昔の俺が、俺の想像以上に、お前を傷付けてたんだって」

 ↑体育祭で羽花と再会した時の、大輝視点から見た羽花の顔を描写。
  (怖がってる、泣き出しそう、みたいな感じ)

大輝はバツの悪そうな表情で俯く。

大輝「俺が田舎で孤立したこと、ずっとお前のせいにしてたけど……お前のせいじゃなかった。全部自分でまいた種だった。あの時ようやくそれに気づいたんだぜ、遅ぇよなあ」
羽花「……」
大輝「だからさ……すげー遅くなっちまったけど、ひとことだけ、お前に言いたかったんだ」

大輝は目を伏せ、ひとつ息を吸い込む。


大輝「ごめん」


そして、羽花に対して、深く頭を下げる大輝。
 →羽花は目を見開き、硬直。

羽花(ダイくんが、謝ってる)
  (あのダイくんが……)

 →過去の自分が、当時の大輝に謝られているような錯覚になる。
  胸につっかえていた何かが取れていくような描写。

羽花がなんと言っていいか分からずに口篭っていると、しばらくして、大輝がバッと顔を上げる。

大輝「……っあ〜〜、スッキリした!」
羽花「!」
大輝「なんかもう、たったこんだけのこと言うのに、すげー緊張したじゃん。あーあ、ドキドキした。慣れねーことするもんじゃねえなー」

照れ隠しなのか、ガシガシと頭を掻いてひとりごと。
大輝は顔を背け、また呟く。

大輝「……別に、俺のこと許さなくていいよ。許されたくて謝りたかったわけじゃない」
  「もう二度と俺に口聞かないって思われても、文句ない。当然だ」
  「ただ、一言も謝らないのは違うと思ったから、その……」

自分の意見をぽつぽつと語る大輝。
羽花は肩の力を抜き、ようやく口を開く。

羽花「……ダイくん」
大輝「ん?」
羽花「昔と変わったね。すごく」
大輝「……はあ? 何が? お前の方が見た目変わってんだろ、最初誰か分かんなかったっての」
羽花「わたしは……見た目だけは変わったと思うけど、中身は、全然、昔のままで……」
大輝「バーカ、それを言うなら俺だって別に変わってねーよ。ただ凝り固まったいらねーもんを取っ払って、脱ぎ捨てただけ。中身はずっとクソ野郎のまんま」
羽花「でも、それでもすごいと思う。成長してるって思う。わたしもそんな風に変わりたかった……けど、わたしは……」

苦笑いで視線を落とす羽花。
 →大輝は眉をひそめ、やれやれみたいな感じで嘆息。

大輝「あのな、変わりたいって言うけどさ、別に自分の中身までまったくの別モンに変える必要なんかねえんだよ」
羽花「!」
大輝「ただ、厚くなりすぎた殻を少し破って、自分の視点を変えるだけでいいの」

大輝は近くの遊具コーナーにあるカラフルな可愛いイモムシの乗り物(バネがついてる、前後に揺れるやつ)を指さす。

大輝「イモムシって、サナギの殻を破って飛べるようになるじゃん? でも、チョウチョになったって、中身はイモムシの頃のまんまかもしんない」
  「でも、多分それでいいんだよ。たとえ中身がイモムシのまんまでも、飛ぶために自分で羽を生やして視野が広げたってことが、きっと大事なことなんだからさ」
羽花「……」
大輝「まー、お前も、なんか自分の中の凝り固まったモン捨てたらひとつ成長できるんじゃねーの。知らんけど」
  「……つーか、その凝り固まったモンの原因は俺である可能性が非常に高いから、あんま偉そうなこと言えねーけど……」
羽花「……ふっ」

だんだん気まずそうな顔になっていく大輝に、羽花は思わず吹き出す。
 →大輝はちょっと恥ずかしそうにムッとする。

羽花「ふふふっ……」
大輝「……何笑ってんだコラ」
羽花「ごめ……なんか、ダイくんがしおらしくしてるの、全然似合わなくて面白い」
大輝「は、はあ!? 調子乗んなよお前!」
羽花「あは、ごめんなさい。あははっ」
大輝「めっちゃ笑うじゃん……」

自然と笑っている羽花の笑顔にぶすっとした表情の大輝。
だが、やがて大輝も表情も緩み、二人で向かい合って笑い合う。
 →幼い頃の自分たちと重なるような描写で、長年のわだかまりが解けるような演出。

やがて、お互いにスッキリした表情で顔を上げる。

大輝「……話も済んだし、そろそろ戻るか。希一が怒鳴り込んできたらやだし」
羽花「うん、そうだね」

二人が並んで歩いて戻る。
 →二人の背中を描写。
 →途中、大輝が口を開く。

大輝「あのさ。なんか、今さらすぎて言い訳っぽく聞こえるかもだけど」
羽花「ん?」
大輝「……俺、最初にお前を『トイプー頭』って呼んだ時……別に、悪気があったわけじゃないんだ」

羽花は大輝の横顔を見る。
大輝はまっすぐ前を見たまま続ける。

大輝「俺、あの頃、家でトイプードル飼ってて……お前のクルクルして色素の薄い髪が、ちょっと似てるなと思ったから」
  「何気なく『トイプードルみたい』って言ったら、周りのヤツらが大笑いして、なんか、バカにしたみたいな空気になって……」

 ↑小学生時代、何気なく言った言葉で羽花を傷つけてしまった時の様子を描写。
回想後の大輝はバツの悪そうな表情。

大輝「だから、最初は悪い意味で言ったんじゃなかった。本当に」
羽花「……変な髪って言ってたくせに」
大輝「あれは、その……! なんか後に引けなくなってそう言っちまったんだよ! 俺がガキだったから! すみませんでした!」
羽花「じゃあ、本当は変な髪って思ってなかったの?」
大輝「……まあ、本気でそう思ったことはねーよ」
  「確かに周りと違う変わった髪だったけど、別に、変じゃないし」
  「むしろちょっと、可愛いとか思ってたし……」
希一「──あぁ?」

その時、前からやってきた希一が低い声で会話を遮る。
 →めちゃくちゃ不機嫌そうな顔の希一を描写。 
 →げんなりと辟易する大輝と、きょとんとしている羽花を続けて描写。

大輝「……うげぇ。なんでいんだよ。ストーカー? こっわ」
希一「ちげーよ。おせえから迎えに来たんだろ。どっかの誰かさんが噛み付いて泣かせてるかもしんねーじゃん。羽花を」
大輝「はー、やだやだ、付き合ってるわけでもねえのに執着してだるすぎ。ちゃんと優しくしてやったのになあ? 羽花に」
希一「呼び捨てすんなマジうざいお前」
大輝「お前こそだるいキモいうざい」

低レベルな口喧嘩になる希一と大輝。
 →『あれ、もしかして仲良いのかも?』とか思いながら見守る羽花。
希一は不機嫌そうに嘆息して、羽花と大輝にペットボトルのジュースを投げ渡す。(イチゴミルクとバナナミルク)

希一「……ま、和解できたみたいでよかったじゃん。祝杯にどうぞ。俺の奢り」
大輝「え、何、お前もしかしてずっと聞いてた? キッッモ!」
希一「聞いてねーっつの。でも、なんとなくどんな話したのか分かる。羽花の顔がもう怖がってないから」
大輝「……」

大輝は羽花と目を合わせる。(今はちゃんと目を見てくれる羽花)
 →もう、目はバケモノを見るみたいにぐらぐら揺らいだりしていないことを描写。

大輝はなんとなく照れくさそうに、「ちっ」と舌打ちしてペットボトルのフタを開ける。

大輝「あーあ、俺、こういうミルク系じゃなくて炭酸のヤツがよかったのに。センスねえわ希一」
希一「(イラッ)……俺のメロンソーダと交換すれば?」
大輝「やだ。レモンのシュワシュワのヤツがいい」
希一「お前マジでどつくぞ」
羽花「ふふっ、二人とも仲良いね」
希一・大輝「「それはない」」
羽花「あははっ」

イチゴ、バナナ、メロンのジュースで乾杯する描写。
三人とも心の距離が縮まるようなコマで終了。

〈第12話 終わり〉
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