【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる

第13話

○場所:羽花の自宅/朝

アラームの音:
 ──ピピピピピ……。

まだ夜明け前の暗い時間に目をさます羽花。
 →起き上がる。

羽花(う……もう朝……)
  (さすがに11月だし、けっこう寒い……)
  (風邪ひかないように急いでシャワー浴びて、グルグルの髪の毛整えて……)

部屋の電気をつける。
 →すると、ハンガーに男もののパーカーがかけてある。

羽花(あ! そうだ、今日は希一くんにパーカー返さないと……!)

〈簡単に回想〉

遊園地の帰りに、少し気温が下がって羽花がくしゃみ。
→希一が自分のパーカーを羽花にかぶせる。
→返すの忘れて着たまま帰ってきてしまった。

〈回想終了〉


羽花「えーと、スマホ……」

スマホを探し、メッセージアプリを開く。


〈トーク画面〉------

羽花【おはよう!】5:36
  【(変なスタンプ)】5:36
  【今日の放課後】5:37
  【美容室に】5:37
  【希一くんのパーカー返しにいくね】5:37

〈トーク画面終了〉------


→返事は戻ってこない。

羽花(さすがにまだ寝てるよね、朝の五時半だし……)
  (まあいいや、早く準備しなくちゃ)
  (シャワー浴びて、髪をストレートに……)

鏡の中の自分と目が合う。
髪がうねって広がっている。

羽花(毎日、毎日)
  (うねる髪を伸ばして、まっすぐにして……)
  (……わたし、これからずっと、この髪の毛を隠したまま、生きていくのかな)
  (みんなに、嘘ついて……)

  (……それっていつまで?)
  (一生……?)

モヤ、とイヤな感情になる羽花。
大嫌いだった自分の髪に指を通す。
 →その時、遊園地で大輝に言われた言葉を思い出す。

〈回想〉

大輝『別にさ、自分の中身までまったくの別モンに変える必要なんかねえんだよ』
  『ただ、厚くなりすぎた殻を少し破って、自分の視点を変えるだけでいいの』

〈回想終わり〉

羽花「殻を、破って……」

呟き、再び鏡の中にいる本当の自分を見る。
やがてそっと目を伏せ、部屋をでていく。


○場面転換/学校の廊下〜教室

朋音「あ、羽花だ」
真綾「羽花ちゃん、おはよ〜っ!」
羽花「うん、おはよ、二人とも」

いつもの二人と廊下で合流。
 →教室へ。

真綾「はあ、今日寒いね〜。そろそろタイツ履こうかな〜」
朋音「まあ、もう11月だしねえ」
真綾「あっという間に年末だ〜、今年が終わる〜」
朋音「文化祭ももうすぐか、明日から準備期間だっけ」
  「あ、文化祭と言えば、羽花のファッションショーの話はどうなったの? 髪型決めた?」
羽花「……あっ」

他愛もない話をしていると、話題は文化祭へ。
 →来栖先輩から『ファッションショーのモデルに決めた!』と言われていたことを思い出す。

羽花はハッとして「そういえばそうだった……!」と青ざめる。

羽花「どうしよう、まだ何も決めてないや。来栖先輩に急かされる……」
朋音「まあでも、別にそのままでもいいんじゃない? 羽花は元々が髪綺麗だし、いつものストレートのままで問題なさそう」
羽花「え?」
真綾「そうだよ〜! 羽花ちゃんといえばストレート! ストレートこそ羽花ちゃん! ってイメージだしね! 自然体で行こ!」
羽花「あ……そ、そう、だよね」
  (自然体……)

元々がストレートの髪ではない羽花は、少し後ろめたさを覚える。
 →『ストレートこそ羽花ちゃん!』という言葉に胸がざわつく。

羽花(そっか、自然体か……)
  (ストレートこそわたし、ってイメージなんだ……)
  (じゃあ、ストレートじゃなくなったら……わたしはわたしじゃなくなる……?)
  (ストレートのわたしは偽物なのに?)
  (……あれ? だったら、)

  (本当のわたしは、今、どこ?)

 →ぐるぐるとがんじがらめになった自分の髪の毛(繭みたいな)の中に、本当の自分が絡まって隠されていくようなイメージを描写。
 →ちょっと怖くなって青ざめる。

羽花(だ、だめだめ、考えるな! わたしが変わろうと頑張って手に入れたストレートだもん、本物でも偽物でもない!)

モヤモヤを振り払いになりながら、羽花はスマホを見る。
 →希一からの返事はまだない。

羽花(……あれ? まだ既読ついてない)
  (いつもならすぐ返事くるのに)
  (希一くん……)

さらに心細くなる。
結局返事はこないまま、ホームルームが始まってしまった。


○場面転換/放課後。
 場所:帰り道〜宮瀬美容室前。

結局、希一からの返信はないまま。(既読すらついていない)
とぼとぼ歩きながら美容室方面へ。

羽花(希一くん、全然メッセージ見てないみたい……)
  (もしかして、先生にスマホ没収されちゃったのかな。東高って進学校だから、授業中にスマホ見つかるとしばらく返ってこないって聞いたことあるし)
  (うーん、いきなり訪ねて大丈夫かな……? まあ、もし希一くんが帰ってなくても、お店にお父さんがいるだろうから、事情を話してパーカーだけ返せば……)

宮瀬美容室に到着。
 →しかし、なんと定休日。

羽花(休みーー!!)
  (そ、そうだ、今日って連休明けの火曜日だ! しまった、休みなんだ……!)
  (どうしよう、確かお店の二階が実家のはずだけど……希一くんが帰ってくるまで待つ? ここで? えええ?)

あたふたする羽花。
すると、そこへチャリに乗った雄太が帰宅。

雄太「ん? あれは……」
羽花「!」
雄太「あっ、やっぱり! 希一のカノジョちゃんじゃん!」
羽花「希一くんのお兄さん!」
雄太「どーも、この前ぶり〜。ウチの前で突っ立って、どーした?」
羽花(良かった! お兄さんに渡せば解決だ!)
  「あの、実は希一くんの……」

パーカーを返そうと紙袋を差し出す。
しかし、ピーンときた顔で雄太は「なるほど、わかった!」と声を張る。

雄太「さては、お見舞い(・・・・)にきてくれたんでしょ! さっすがカノジョ!」
羽花「……へ? お見舞い?」
雄太「上がって上がって! 希一、部屋で寝てるから! どーぞ!」
羽花「え!? あ、あの!?」

チャリを適当にとめた兄にグイグイと背中を押され、羽花は宮瀬家へお邪魔することになってしまった。


○場面転換/宮瀬家。雄太と希一の部屋。

二段ベッドの下の段で寝込んでいる希一。
 →額に冷えピタみたいなシートを貼っている。

羽花「ま、まさか、希一くんが高熱で寝込んでたなんて……」
雄太「昨日の夜、風呂上がりに突然ぶっ倒れたんだよねー。マジびびったわ」
羽花「うう……わたしのせいかもしれないです……。遊園地でパーカー借りてる間、希一くん薄着だったから……」
雄太「あらま、かっこつけたのに自分が風邪ひいてぶっ倒れたのか。可愛いヤツ〜」

雄太はへらへら笑い、「ごめんけど、しばらく一緒にいてやって」と言って部屋をでていく。
羽花は部屋に残され、ぎこちなく周囲を見渡す。

羽花(えっ、この状況どうしよ……あんまり長くいても迷惑だろうし……わたしも早く帰った方が……)
希一「う……ぅ……」
羽花(あああ、希一くん、熱にうなされてつらそう……! ごめんね! わたしのせいだね! パーカー貸してくれてありがとう! 本当にすみません!)

心の中でひたすら謝り、ひとまず借りたパーカーを机に置いておこうと考えて希一の机へ。
 →すると、希一の机にはトイプードルのハンドクリームが。

羽花(あっ、これ、わたしがプレゼントしたやつ!)
  (使ってくれてる……嬉しい……)

きゅうん、と胸がときめく描写。
 →穏やかな気持ちになった直後、近くに小学生時代の卒業アルバムが置いてあるのを発見する。

羽花「あれ? これって……」

アルバムを手に取る羽花。
思い出したのは体育祭の時のこと。
 →雄太から『卒アルの子』と呼ばれたことを思い出す。

羽花(そういえばあの時、わたし、なんでお兄さんから卒アルの子って言われたんだろ?)
  (うーん、気になる……もしかして、わたし、すごい変な顔でどこかに写ってるとか……?)

何気なく卒アルを開いてみる。
 →知っている顔が何人もいてハッとする。

羽花(うわ、懐かし! すごい久しぶりに見た、この校舎!)
  (こっちには仲良しだったアイちゃんがいる! それにミッちゃんも! こっちのクラスには近所だったマイちゃん……あっ、希一くんいた! ふふ、まだあどけなくて可愛い〜)
  (んー、この先生知らないなあ。あ、この先生は知ってる。校長先生も途中で変わったんだなあ〜、へえ〜)

懐かしみながらパラパラめくっていると、最後の方に、『これまでの思い出』というコーナーが出てくる。
そこには小学1〜5年生の時までの写真が、いくつか掲載されている様子。

羽花(小学一年生から五年生までの頃の写真……ってことは、ここにならわたしも写ってるかも!)

興味本位で、ぺら、ともう1ページだけめくる。
すると、そのコーナーの余白に、突然油性マジックで子どもが書いたような拙い文字が現れた。

 『すき』

そう書かれた文字のすぐ近くには、カメラに向かって振り向いている羽花の写真が。
 →トイプードルみたいな頭をした幼い頃の羽花の顔が、油性マジックで囲われている。

羽花「え──」

驚いて目を見開いたその時、突如、背後から手が伸びる。

──バンッ!
 →伸ばされた手が勢いよく卒アルを奪って本を閉じる音。

振り向くと、真っ赤な顔をしている希一が。
 →動揺している表情。
 →汗をかき、今まで見たこともないぐらい真っ赤。

羽花はギョッとする。
希一はふらふらとベッドへ倒れる。

羽花「き、希一くん! 大丈夫!?」
希一「……っ」
羽花「顔真っ赤だよ!? ね、熱! 熱があるんだよね! ごめんなさいわたしのせいで……!」
希一「……お前の、方こそ……」
  「……顔、真っ赤なんだけど……」

赤い顔を自分の手で隠しながら目を泳がせ、力なく羽花に言う希一。
 →視線の先にいる羽花の方が、なぜか真っ赤になっている。
  戸惑う羽花は、目を泳がせてオドオド。

羽花「え、ええ? お、お、おかしいな〜? 風邪がうつっちゃったのかも〜……た、大変だ〜、あは……」
希一(棒読み……)
羽花「え、えへへ……じゃあ、わたし、このへんで帰りますので……お大事に……」

ぎこちない動きで逃げようとする羽花。
だが、その制服の裾を希一の手がつかまえる。

希一「待った……」
羽花「!」
希一「……見た?」
  「あのアルバムの……」
  「俺が、ガキの頃に書いたヤツ……」

希一は枕に顔を埋めながら、小さく問いかける。
 →『すき』の文字を思い出し、羽花はなおのこと真っ赤に。

羽花「え、ええと~……見た……ような、気もする……ような……」
希一「どっちだよ……」
羽花「見ました……」
希一「……そうですか」
羽花「あ、あの……あれって……もしかして、今も──」
希一「あ〜〜〜、待ってごめん、それ以上はなんも言わないで」

希一は枕に顔を埋めたままストップをかける。
 →言葉を飲み込む羽花。
 →希一は手に汗をかいている描写。

希一「いや、あの、違う、否定したいわけじゃ、ないんだけど……」
羽花(否定したいわけじゃない……ってことは、つまり……)
希一「けど、今はちょっと、なんて言うか、タイミングが違くて……」
羽花(タイミング……?)
希一「その……」

真っ赤な顔でぼそぼそと言って、ゴロンと寝返りを打つ希一。
 →ドキドキする羽花に背を向けてしまう。

希一「……今、そういう話しても、風邪ひいてるから、キスとかできないし……」
羽花「キッ……!?」
希一「だから、また、後日で……」

背を向けられているため希一の顔は見えないが、耳が赤い。
羽花は困惑。

羽花(え……ご、後日そういう話する時は、わたし、キスされちゃうってこと……!?)

想像すると胸が爆発しそうになる羽花。
 →その時、ふと、希一の部屋にある鏡の中に自分の姿が映っている。
 →ストレートにしている自分に、なんだか違和感。
 →先ほど見た幼い頃の〝トイプー頭〟の自分が、やけにしっくりくる。


──本当のわたしは、今、どこ?


 →朝、学校で自分に抱いた疑問を思い出す。
 →羽花は静かに視線をアルバムへ移す。

がんじがらめになって自分に絡まっていた繭の隙間から、幼い頃の自分の姿を見つけるような描写。

羽花「そっか……こんなとこにいたんだ……」
希一「……え?」
羽花「ううん、なんでもない」
  「なんでもないけど……ただ──」

羽花は優しく微笑む。

羽花「久しぶりに見たら、思ったより可愛かったなって」
希一「……? 何が?」
羽花「昔のわたし。〝トイプー頭〟の」

どこか吹っ切れたような表情で笑う羽花。
希一は少しだけ振り向いていたが、またプイっと背を向ける。

希一「……だから、最初から言ってんじゃん。お前、ずっと可愛かったって」
羽花「うん」
希一「もっと自分に自信持てよ。俺の知ってるお前は、ずっと、あの頃のままなんだから」
羽花(……うん。そう。そうだよね)
  (本当は、ちゃんと分かってるの)
  (あれが〝わたし〟だって)

羽花の微笑む口元と、自分自身を閉じ込めていた心の中の繭にヒビが入るような描写。
羽花は希一のいるベッドに近づき、ギシリと乗り上げて、希一の方へと身を乗り出す。

羽花「あのね、希一くん」
  「わたし、来週の文化祭で、ファッションショーのモデルやることになってるの」
希一「……? ファッションショー……?」
羽花「うん。それで、もしよかったら」
  「その日、希一くんにも見に来てほしい」
  「だから、早く風邪治してね」

羽花は身を乗り出し、希一のほっぺに一瞬だけキスをする。
 →目を見開き、バッと勢いよく振り返る希一。
 →目が合い、ごまかすようにへらりと笑う羽花。

羽花「え、えへへ……早く治る魔法、かけてみました~……」
希一「…………」
羽花「……な、なんちゃっ、て……さ、さよなら……」

羽花はだんだん恥ずかしそうに真っ赤になっていき、そろりそろりと後退して、ぎこちなく部屋を出ていく。
 →その後、バタバタと早足で遠ざかっていく足音。

残された希一はしばらく固まって黙っている。
その後、しばらくして、雄太が部屋に戻ってくる。

雄太「……あれ? カノジョちゃん、もう帰った? リビングにお菓子用意したのに」
希一「…………」
雄太「そうだ、希一にもリンゴ剥いといたから、起きれそうなら食べ──うわっ、顔赤っ!! どうしたお前、また熱上がった!?」
希一「……うるせー……」

あわてる兄に対し、希一は顔を赤くして、ポコッと力なくグーパンチをするのだった。

〈第13話 おわり〉
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