【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる
第2話
○場所:宮瀬美容室
ドアの鈴の音:
──チリンチリン。
希一「ただいま」
美容室の中に入る希一と羽花。
→希一の父と目が合う。
希一父「おう、おかえり希一……って、何だ、女の子連れて。友達? お客さん?」
希一「両方。親父、一番奥の席借りるから」
希一父「へいへい、好きにしな〜」
希一のお父さん(お客さんのカット中)に笑顔で出迎えられ、羽花が戸惑った様子で会釈しながら店の奥へ。
希一「座って」
羽花「あ、あ、あの、わたし、お金持ってないんだけど……」
希一「友達から金なんか取らねーよ、何言ってんの」
フッと短く笑われる。
何年も会っていなかったのに『友達』と言われて、少し驚きつつ、おずおずと椅子に座る羽花。
慣れた手つきで首にタオルを巻かれ、クロスもかけられる。
羽花(え、な、何これ? 何が起きているの?)
同世代の男の子に至近距離に近づかれて緊張する羽花。
不意に希一が羽花の髪を触る。(指に通して掬うような感じ)
→ついビクッとしてしまう。
希一「大丈夫。リラックスして」
羽花「は、はい……」
→緊張でガチガチの様子。
羽花(こ、これ、何かの施術しようとしてくれてるんだよね!? 多分……)
(普通の美容室じゃ当たり前なのに、同級生の男の子に髪の毛触られてると思うと、なんか照れくさくて緊張する……。うぅ……)
希一「藤村さん」
羽花「は、はいっ」
希一「思った通り、結構髪の毛傷んでる」
「髪、ちゃんと乾かしてからアイロン当ててる?」
希一と鏡越しに目が合う。
羽花はうろたえつつ答える。
羽花「い、一応ちゃんと乾かしてるけど、朝、急いでることが多くて……中途半端になる時も多いかも……」
希一「あー、それは良くないな。髪は完全に乾かしてからアイロン当てないと傷みやすい」
羽花「わ、分かってはいるんだけどね……」
希一「これ、矯正もしてるよな。なおのこと傷みやすいよ。事前の熱対策と保湿はしっかり。こんな風に」
言いながら、希一は羽花の髪にヘアミストをかける。
→濡れるとうねりが出てしまう気がしてギクッとする。
希一「大丈夫。何も怖くないって。力抜いて」
羽花「……」
希一「今のはヘアミスト。よく市販でも売ってる、手に入れやすいやつ。アイロン当てる前に、こうやってミストを髪に振りかけることで髪を熱から保護する」
「そのあと、できればヘアセラムもつけるといい。トリートメントと違って洗い流さないから、傷んだ髪をきっちり修復できるし、髪を熱から守る効果もちゃんとある」
「つまり、風呂上がりの化粧水と保湿クリームみたいなもんだと思えばいいわけ。肌の大敵は乾燥だろ? 髪だって一緒だ」
説明を受けながらヘアセラムもなじませ、コームでしっかり髪を梳かれる。
希一「こうやって、アイロン当てる前にしっかり事前のケアをしておくと、髪にツヤも出るし、湿気にも強くなって、キープ力が高まる」
羽花「は、はあ」
希一「毛束は内側から少なく取って、コームで梳いてからアイロンをかけるといいよ。手間だけどね」
熱対策のケアしてもらったあと、髪をまとめてクリップ(ダッカール)でとめられ、おくれ毛から順番にヘアアイロンで伸ばされていく。
→最後にオイルで整え、施術完了。
髪の毛がツヤツヤのストレートに。
希一「はい、終了。おつかれさま」
羽花「す、すごい……ちゃんとサラサラ……!」
「希一くん、すごいよ! 本当に魔法使いみたい!」
やっと笑顔になった羽花が振り向く。
希一は「そりゃよかった」と優しげに微笑む。
→振り向くと、思ったよりも至近距離で目が合ってしまい、羽花が赤くなって目をそらす。
羽花「あ、あの、本当にありがと……ごめんね、成り行きでスタイリングしてもらって」
希一「いや、強引に連れ込んだの俺だし。気にしなくていいから」
羽花「あと……ずっと警戒するような態度しちゃって、本当にごめんなさい。わたし、その……昔とちょっと違うから、どう思われるか心配で……」
希一「ああ、まあ、印象は昔と変わったかもな。一瞬誰か分かんなかったし」
羽花「あはは……」
「……前、すごく変な髪してたもんね、わたし」
へら、と笑って告げると、希一が不服げに眉根を寄せる。
希一「……何言ってんの? お前の髪の毛が変だったことなんて、今まで一度もないだろ」
羽花「……え?」
希一「周りがどう思ってたのか知らねーけど、少なくとも俺は変だなんて思ってなかったよ。ずっと可愛かったから、お前」
羽花「かわ……!?」
さらりと告げる希一に、みるみる赤くなる羽花。
希一はさも当然という顔で首を傾げる。
希一「は? 何変な顔してんの? 『トイプー頭』って呼ばれてたぐらいだし、『髪の毛がふわふわで可愛い』って意味だろ。だってトイプードルって可愛いじゃん」
羽花「いや、えっと……そ、そんなポジティブな意味じゃなかったような気が……」
希一「そう? でも俺は実際に可愛いと思ってたんだから可愛いってことに──」
羽花「も、もういい! もういいから!」
何度も『可愛い』を連呼され、真っ赤になって止める羽花。
→やり取りを聞いていた希一の父が吹き出す。
希一父「くくくっ……希一も言うようになったなあ。いきなり女の子連れてきたかと思えば、今度は口説き出すとは。恐れ入った」
希一「はあ? 親父、余計なこと言うなよ」
希一父「はいはい。いやあ、でも、『トイプー頭』っていうのでようやく分かったよ。君、小学生の頃同じクラスだった羽花ちゃんか。見たことある顔だと思った」
笑顔で羽花を見る希一の父。
羽花は縮こまって「ご、ご無沙汰してます……?」と会釈。
→希一の父はニッコリ。
希一父「今日は希一が強引に付き合わせたみたいで悪いね。家はこの近所?」
羽花「あ、はい。大通りの向こうで……」
希一父「おお、なるほど、あっち側か! もう暗くなったし、気をつけて帰りなよ。希一、送ってあげな」
希一「言われなくてもそのつもり」
希一は頷いて、「ほら、行こ」と手招き。
羽花は周りの人にペコペコしながら、店の外へ。
○場所:外
宮瀬美容室を出て、羽花と希一は並んで歩く。
→やや距離があるかんじ。
希一「藤村さん、西商業だったんだ。意外と近くの高校にいたんだな。家も近いみたいだし」
羽花「ほ、ほんとびっくりだね……。希一くん、いつからこっちにいたの?」
希一「中三の時に引っ越してきた。兄貴がこっち側の大学行くって言うから、思い切って家族と店ごと全部引っ越し」
羽花「そうだったんだ……。希一くん、東高だよね? その制服」
希一「うん。歩いて五分でつく距離だから余裕ぶっこいて逆に遅刻しがち」
羽花「あはは、あるある」
他愛もない会話をしつつ、横断歩道の前で立ち止まる。
風が吹いて、さら、と羽花の髪が流れる。
羽花(わ、髪からいい匂いする……さっき、希一くんにつけてもらったヘアオイルの匂いかな)
サラサラになった髪を無意識に触って微笑んでいると、不意に希一が「藤村さん」と呼びかける。
羽花「ん?」
希一「……藤村さんって、彼氏いる?」
羽花「へ!?」
希一「いや、もし彼氏いるなら、俺と二人で歩いてんのまずいかなーと思って。……今さらなんだけど」
聞きにくそうに首元を掻き、たずねる希一。
羽花は目を泳がせて苦笑い。
羽花「あ、ああ、そういうことね……。彼氏とかいないし、好きな人もいないから大丈夫だよ。わたし、そういうのあんまり縁がないんだ〜。商業高校だから、クラスも女の子ばっかりだもん」
希一「……そう」
羽花「それにね、わたし、あんまり恋愛する勇気なくて」
希一「え、なんで?」
羽花「うーん……うまく言えないけど、やっぱり、昔、髪の毛のことで男の子にいじめられたの、ちょっとトラウマなのかも」
羽花はへらへらしている。
→希一はいささか眉をひそめる。
羽花「今はこうやって、髪の毛を綺麗にしてもらったけど、わたしは何もせずにずっと綺麗でいられるわけじゃないから」
「もし恋人なんか作ったら、元の髪に戻った時、相手に幻滅されるんじゃないかって……そう思うと、怖くて恋愛する勇気なんか出ないよ」
どこか切なげな表情。
希一はしばらく黙って、羽花の横顔を見つめる。
希一「……大丈夫だよ、俺は」
やがて、希一の口元がか細くこぼす描写。
「え?」と羽花が振り返ると、希一が羽花の手を掴む。
希一「あのさ、お願いがあるんだけど」
羽花「……お、お願い?」
希一「俺、ご覧の通り美容師目指してんだけど、まだまだ修行が足りなくてさ。色々練習が必要なわけ」
「そんなわけで、週に一回とか、二回でもいいからさ……よかったら、今日みたいに、少しの時間、俺にくれない?」
希一は真剣な顔で羽花の目を見つめる。
希一「藤村さんの髪に魔法をかける練習、させてよ」
羽花の驚いた顔を描写。
〈第2話 おわり〉
ドアの鈴の音:
──チリンチリン。
希一「ただいま」
美容室の中に入る希一と羽花。
→希一の父と目が合う。
希一父「おう、おかえり希一……って、何だ、女の子連れて。友達? お客さん?」
希一「両方。親父、一番奥の席借りるから」
希一父「へいへい、好きにしな〜」
希一のお父さん(お客さんのカット中)に笑顔で出迎えられ、羽花が戸惑った様子で会釈しながら店の奥へ。
希一「座って」
羽花「あ、あ、あの、わたし、お金持ってないんだけど……」
希一「友達から金なんか取らねーよ、何言ってんの」
フッと短く笑われる。
何年も会っていなかったのに『友達』と言われて、少し驚きつつ、おずおずと椅子に座る羽花。
慣れた手つきで首にタオルを巻かれ、クロスもかけられる。
羽花(え、な、何これ? 何が起きているの?)
同世代の男の子に至近距離に近づかれて緊張する羽花。
不意に希一が羽花の髪を触る。(指に通して掬うような感じ)
→ついビクッとしてしまう。
希一「大丈夫。リラックスして」
羽花「は、はい……」
→緊張でガチガチの様子。
羽花(こ、これ、何かの施術しようとしてくれてるんだよね!? 多分……)
(普通の美容室じゃ当たり前なのに、同級生の男の子に髪の毛触られてると思うと、なんか照れくさくて緊張する……。うぅ……)
希一「藤村さん」
羽花「は、はいっ」
希一「思った通り、結構髪の毛傷んでる」
「髪、ちゃんと乾かしてからアイロン当ててる?」
希一と鏡越しに目が合う。
羽花はうろたえつつ答える。
羽花「い、一応ちゃんと乾かしてるけど、朝、急いでることが多くて……中途半端になる時も多いかも……」
希一「あー、それは良くないな。髪は完全に乾かしてからアイロン当てないと傷みやすい」
羽花「わ、分かってはいるんだけどね……」
希一「これ、矯正もしてるよな。なおのこと傷みやすいよ。事前の熱対策と保湿はしっかり。こんな風に」
言いながら、希一は羽花の髪にヘアミストをかける。
→濡れるとうねりが出てしまう気がしてギクッとする。
希一「大丈夫。何も怖くないって。力抜いて」
羽花「……」
希一「今のはヘアミスト。よく市販でも売ってる、手に入れやすいやつ。アイロン当てる前に、こうやってミストを髪に振りかけることで髪を熱から保護する」
「そのあと、できればヘアセラムもつけるといい。トリートメントと違って洗い流さないから、傷んだ髪をきっちり修復できるし、髪を熱から守る効果もちゃんとある」
「つまり、風呂上がりの化粧水と保湿クリームみたいなもんだと思えばいいわけ。肌の大敵は乾燥だろ? 髪だって一緒だ」
説明を受けながらヘアセラムもなじませ、コームでしっかり髪を梳かれる。
希一「こうやって、アイロン当てる前にしっかり事前のケアをしておくと、髪にツヤも出るし、湿気にも強くなって、キープ力が高まる」
羽花「は、はあ」
希一「毛束は内側から少なく取って、コームで梳いてからアイロンをかけるといいよ。手間だけどね」
熱対策のケアしてもらったあと、髪をまとめてクリップ(ダッカール)でとめられ、おくれ毛から順番にヘアアイロンで伸ばされていく。
→最後にオイルで整え、施術完了。
髪の毛がツヤツヤのストレートに。
希一「はい、終了。おつかれさま」
羽花「す、すごい……ちゃんとサラサラ……!」
「希一くん、すごいよ! 本当に魔法使いみたい!」
やっと笑顔になった羽花が振り向く。
希一は「そりゃよかった」と優しげに微笑む。
→振り向くと、思ったよりも至近距離で目が合ってしまい、羽花が赤くなって目をそらす。
羽花「あ、あの、本当にありがと……ごめんね、成り行きでスタイリングしてもらって」
希一「いや、強引に連れ込んだの俺だし。気にしなくていいから」
羽花「あと……ずっと警戒するような態度しちゃって、本当にごめんなさい。わたし、その……昔とちょっと違うから、どう思われるか心配で……」
希一「ああ、まあ、印象は昔と変わったかもな。一瞬誰か分かんなかったし」
羽花「あはは……」
「……前、すごく変な髪してたもんね、わたし」
へら、と笑って告げると、希一が不服げに眉根を寄せる。
希一「……何言ってんの? お前の髪の毛が変だったことなんて、今まで一度もないだろ」
羽花「……え?」
希一「周りがどう思ってたのか知らねーけど、少なくとも俺は変だなんて思ってなかったよ。ずっと可愛かったから、お前」
羽花「かわ……!?」
さらりと告げる希一に、みるみる赤くなる羽花。
希一はさも当然という顔で首を傾げる。
希一「は? 何変な顔してんの? 『トイプー頭』って呼ばれてたぐらいだし、『髪の毛がふわふわで可愛い』って意味だろ。だってトイプードルって可愛いじゃん」
羽花「いや、えっと……そ、そんなポジティブな意味じゃなかったような気が……」
希一「そう? でも俺は実際に可愛いと思ってたんだから可愛いってことに──」
羽花「も、もういい! もういいから!」
何度も『可愛い』を連呼され、真っ赤になって止める羽花。
→やり取りを聞いていた希一の父が吹き出す。
希一父「くくくっ……希一も言うようになったなあ。いきなり女の子連れてきたかと思えば、今度は口説き出すとは。恐れ入った」
希一「はあ? 親父、余計なこと言うなよ」
希一父「はいはい。いやあ、でも、『トイプー頭』っていうのでようやく分かったよ。君、小学生の頃同じクラスだった羽花ちゃんか。見たことある顔だと思った」
笑顔で羽花を見る希一の父。
羽花は縮こまって「ご、ご無沙汰してます……?」と会釈。
→希一の父はニッコリ。
希一父「今日は希一が強引に付き合わせたみたいで悪いね。家はこの近所?」
羽花「あ、はい。大通りの向こうで……」
希一父「おお、なるほど、あっち側か! もう暗くなったし、気をつけて帰りなよ。希一、送ってあげな」
希一「言われなくてもそのつもり」
希一は頷いて、「ほら、行こ」と手招き。
羽花は周りの人にペコペコしながら、店の外へ。
○場所:外
宮瀬美容室を出て、羽花と希一は並んで歩く。
→やや距離があるかんじ。
希一「藤村さん、西商業だったんだ。意外と近くの高校にいたんだな。家も近いみたいだし」
羽花「ほ、ほんとびっくりだね……。希一くん、いつからこっちにいたの?」
希一「中三の時に引っ越してきた。兄貴がこっち側の大学行くって言うから、思い切って家族と店ごと全部引っ越し」
羽花「そうだったんだ……。希一くん、東高だよね? その制服」
希一「うん。歩いて五分でつく距離だから余裕ぶっこいて逆に遅刻しがち」
羽花「あはは、あるある」
他愛もない会話をしつつ、横断歩道の前で立ち止まる。
風が吹いて、さら、と羽花の髪が流れる。
羽花(わ、髪からいい匂いする……さっき、希一くんにつけてもらったヘアオイルの匂いかな)
サラサラになった髪を無意識に触って微笑んでいると、不意に希一が「藤村さん」と呼びかける。
羽花「ん?」
希一「……藤村さんって、彼氏いる?」
羽花「へ!?」
希一「いや、もし彼氏いるなら、俺と二人で歩いてんのまずいかなーと思って。……今さらなんだけど」
聞きにくそうに首元を掻き、たずねる希一。
羽花は目を泳がせて苦笑い。
羽花「あ、ああ、そういうことね……。彼氏とかいないし、好きな人もいないから大丈夫だよ。わたし、そういうのあんまり縁がないんだ〜。商業高校だから、クラスも女の子ばっかりだもん」
希一「……そう」
羽花「それにね、わたし、あんまり恋愛する勇気なくて」
希一「え、なんで?」
羽花「うーん……うまく言えないけど、やっぱり、昔、髪の毛のことで男の子にいじめられたの、ちょっとトラウマなのかも」
羽花はへらへらしている。
→希一はいささか眉をひそめる。
羽花「今はこうやって、髪の毛を綺麗にしてもらったけど、わたしは何もせずにずっと綺麗でいられるわけじゃないから」
「もし恋人なんか作ったら、元の髪に戻った時、相手に幻滅されるんじゃないかって……そう思うと、怖くて恋愛する勇気なんか出ないよ」
どこか切なげな表情。
希一はしばらく黙って、羽花の横顔を見つめる。
希一「……大丈夫だよ、俺は」
やがて、希一の口元がか細くこぼす描写。
「え?」と羽花が振り返ると、希一が羽花の手を掴む。
希一「あのさ、お願いがあるんだけど」
羽花「……お、お願い?」
希一「俺、ご覧の通り美容師目指してんだけど、まだまだ修行が足りなくてさ。色々練習が必要なわけ」
「そんなわけで、週に一回とか、二回でもいいからさ……よかったら、今日みたいに、少しの時間、俺にくれない?」
希一は真剣な顔で羽花の目を見つめる。
希一「藤村さんの髪に魔法をかける練習、させてよ」
羽花の驚いた顔を描写。
〈第2話 おわり〉