【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる

第6話


○放課後、駅で待ち合わせ。

希一は先に来て、壁に背をもたれながらスマホを見ている。
 →ちら、とたまに時計を見上げる描写。
そこへ羽花が走ってくる。

希一「お」
羽花「はあ、はあ……ごめん、遅くなった……」
希一「いや、俺も今来たとこ」

スマホを閉じ、ポケットに入れた希一。
羽花はなんとなく希一を意識してしまい、ちらちらと彼を見る。

羽花(うう、トモちゃんとマーちゃんのせいで変に意識しちゃうよ)
  (でも、これが恋……かもしれないと思うと、なんか、一段と希一くんがかっこよく見えるような気が……!)

 →視線に気づいた希一は首を傾げる。

希一「……何?」
羽花「あっ、いや、えへへ……」
希一「はー? どういう笑い? それ」
羽花「な、なんでもないよ。それより、手、ちょっと見せて」

笑ってごまかしつつ、羽花は希一の手を見せてもらう。
 →荒れて絆創膏が貼ってある手。
  刺激しないように優しく触れる。

羽花(さりげないボディタッチ……さりげないボディタッチ……!)
希一「……おい?」
羽花「ハッ! い、いや、やっぱりすっごい手が痛そうだなって、思って」
希一「うん?」
羽花「だから、その、今日は……希一くんの手が少しでも治るような、ハンドクリーム、プレゼントしたいなーって……」

少し照れながらぼそぼそ告げる。
希一は黙っている。
 →沈黙が怖いので、羽花はあたふたといっぱい喋る。

羽花「えっと、お礼はいらないって言われたから、これはお礼とかじゃなくて、わたしの気持ちとして受け取ってほしいというか!」
  「ほら、あの、希一くんの手はわたしにとって〝魔法をかけられる特別な手〟だから! もっと大事にしてほしいの! うん!」
希一「!」

魔法をかけられる特別な手、という言葉で、希一が目を見開いている描写。
→脳裏に昔の記憶がよぎる。

(短い回想)

ふわふわのトイプー頭をしている小学生の頃の羽花が、希一に向かって泣きそうな顔で微笑んでいる記憶。

小学生時代の羽花:
 『希一くん、いつかすごい魔法使いになってね』
 『それでいつか、わたしに──』

(回想終了)


羽花「……希一くん?」

ぼんやりしている希一を羽花が覗き込む。
ハッとして我に返る希一。

希一「あ、いや、ごめん。何だっけ」
羽花「大丈夫? ぼーっとしてたけど」
希一「いや大丈夫……ていうか、今日俺と一緒に行きたかった場所って、もしかしてそのハンドクリーム売ってるところ?」
羽花「えっ……う、うん。やっぱり、イヤ……?」

羽花は恐る恐る問いかける。
希一はフッと笑う。

希一「……全然。イヤじゃない。嬉しい」
羽花「! ほんと?」
希一「うん。俺もちょうど欲しかったし」
羽花「よかった! じゃあ行こ、友達がおすすめのお店教えてくれたんだ! こっち!」
希一「ん」

羽花が手を離し、笑顔で先導する。
希一は羽花が触れていた自分の手を眺め、密かに頬を緩める。


○場面転換/ファンシーなお店の前

希一「……ごめん、俺やっぱイヤかも」
羽花「う、うぅ〜ん……」

真顔で目を細める希一と、頬を引きつらせる羽花。
 →真綾が教えてくれた店が、めちゃめちゃ女子向けのファンシーな店。
  店の中に女子しかいない上に混んでる。

羽花(しまった……そういえば、トモちゃんとマーちゃんに相談する時、誰にプレゼントするのか言わなかったかもしれない……! 女の子へのプレゼントだと思われちゃったんだ……!)
  (これはさすがに、希一くんに渡すにはデザインが可愛すぎる……)
希一「……藤村さん?」
羽花「あっ、ご、ごめん! お店間違えたかも……! ちょ、ちょっと待ってね……!」

慌ててスマホを取り出し、朋音に連絡しようとする。
だが、希一が止める。

希一「あのさ、もし行く店決まってないなら、俺の好きなとこあるんだけど」
羽花「えっ」
希一「そこでいい?」
羽花「も、もちろん!」

助かった、と羽花が密かに安堵する。
 →移動。

○場所:シンプルなコスメティックブランドのお店

シンプルでおしゃれなデザインのハンドクリームが並んでいる。
 →他にもヘアケア商品とかいろいろ。

希一「ここ、デザインもシンプルで、値段もそこそこ安価なブランドなんだよね」
羽花「ほんとだ、スタイリッシュでいいね! 好きなの選んでいいよ! ご、五千円までなら出せる!」
希一「そんなに高いのいらねーよ。俺はこれがいい」

→500円の小さいハンドクリーム。
 羽花はむっとする。

羽花「……それは小さすぎ……こんなんじゃお礼にならない……」
希一「ん? 今日は〝お礼〟じゃないんだろ?」
羽花「う……っ。だ、だとしても小さいよ! だったらもうひとつ、私が選ぶ……!」

羽花は商品をじっと見て選ぶ。
しばらく睨めっこしていると、トイプードルの絵が描かれたラベルのハンドクリームを見つける。

羽花「トイプードル……」
希一「あ、俺、それがいいな」
羽花「え……」
希一「可愛いから」

ハンドクリームではなく羽花をじっと見て告げる希一。
羽花はみるみる赤くなり、「じゃ、じゃあ、これにする……」と頷く。
 →レジへ。

羽花(うぅ……なんだろ……。昔はみんなからトイプードル扱いされるのイヤだったのに、希一くんに言われるの、全然イヤじゃない……)
  (なんか、悪意を感じないというか……本当に〝可愛いから〟って理由で言ってそうというか……)
  (いやいや、自意識過剰!)

支払いを済ませ、希一のところへ戻る。
 →希一は商品の棚を黙って見ている。

羽花「お待たせ、希一くん。はい、これ、プレゼント」
希一「……ん。ありがと」

無事にプレゼントを渡し、ほっと一息。
 →二人でしばらく歩く。

羽花(あ……でも、これで今日の用事済んじゃった。このままお開きかな……)
希一「藤村さん」
羽花「あ、はい!」
希一「ちょっとトイレ行ってくる。そこのソファ席、座って待ってて」
羽花「わ、わかった」

希一は小走りで来た道を戻っていく。
羽花はソファに座り、小さくため息。
 →暇つぶしにスマホを見ながら大人しく待っていると、隣に誰かが腰掛ける。

羽花「あれ? 希一くん、戻ってくるの早──」
来栖「ん?」

にこやかに座って羽花を見ていたのは、なんと来栖先輩。
 →しかも制服がなぜかパンツスタイル。
 →たちまち青ざめる羽花。

羽花「く、く、来栖先輩っ!? な、なんでここに!」
来栖「たまたま向こうの通りから君の姿が見えたものでね。挨拶しに来たんだ。ふふっ、これも運命のイタズラかな」
羽花「うう、今日こそは会いたくなかったのに……ていうか、なんで男子の制服着てるんですか?」
来栖「ハッハ〜、時代はジェンダーレスだよ、かわい子ちゃん。女子高生だってズボンで街を闊歩するものさ」
羽花「はあ……」

すでに絡みがめんどくさいと思っている羽花。
来栖は微笑み、羽花の肩を抱いて引き寄せる。
 →嫌な予感がする。

来栖「そうそう。それより、さっき言ってた〝希一くん〟っていうのは……」
羽花(うっ、聞かれてた……)
来栖「昨日の彼のことかな? 随分と仲が良さそうだったじゃないか。付き合ってるのかい?」
羽花「いえ、ただのお友達で……」
来栖「ふぅん? でも、あの彼はそう思っていないようだったけどねえ。嫉妬の炎が燃えたぎっていたよ」
羽花「え? 嫉妬……?」
来栖「うん。だって彼、多分、私のことを──」

来栖は羽花の耳元に唇を寄せ、至近距離から小声で耳打ちする。

来栖「──男だと勘違いしているからね。今からきっと面白いものが見れる」
羽花「……へ」

羽花がぽかんとしたその時、走って戻ってきた希一が羽花から来栖を引き剥がす。

羽花「!?」

驚いた顔の羽花。
 →希一は眉間にシワを寄せ、来栖を睨みつける。
  希一と目が合った来栖先輩はしたり顔で笑う。

羽花「……き、希一くん」
来栖「やあ! また会ったね! ごきげんよう!」
希一「……」

明らかに不機嫌な希一。
ニッコニコの来栖先輩。
青ざめる羽花。

羽花(や、やばい、本当に勘違いしてるかも。誤解を解かなきゃ)
  「あ、あの、違うの希一くん。来栖先輩はね、こんな格好してるけど……」
希一「好きなの?」
羽花「へ?」
希一「この先輩のこと」

希一は不機嫌そうなまま先輩のことを顎でさす。
羽花は「すき……?」と呟いたあと、スンッと真顔に戻って目を細め、疲弊した表情で答える。

羽花「いや、好きかと言われると別にそこまで……」
来栖「やだなー、藤村さんてば冗談ばっかり。照れるな照れるな〜」
羽花「先輩は黙っててください」
希一「……別に好きじゃないんだったら、コイツにひとこと言っていい?」
羽花「え? ひとことって何を──」

希一「──羽花にベタベタ触んなクソ野郎。気分悪ィんだよ」

希一は先輩を冷たく見下ろし、物怖じすることなく牽制。
 →羽花は衝撃すぎて絶句。
 →来栖先輩はニヤ〜っと楽しげ。

希一は呆然とする羽花を捕まえ、お構いなしにその場から連れ出す。

そのまま去っていく二人。
彼らを黙って見送ったあと、来栖先輩は「ぶふっ」と吹き出し、お腹を抱えて「あ〜っ、面白!」と一人で笑っていた。

〈第6話 終わり〉
< 6 / 16 >

この作品をシェア

pagetop