【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる
第8話
〈短い回想〉
希一との買い物の帰り道、一人分の距離をあけて歩く二人。
羽花(モノローグ):
──実はわたしのこと気になってる? なんて、
──そんなふうに聞く勇気はなかったけれど、
〈回想ここまで〉
○場所:自宅
羽花(モノローグ):
──でも、これって、
──もしかしたら、もしかしたり……
──……する?
→髪を乾かしたり、櫛で髪をといたり、アイロンをかけたり……など、朝の準備をする描写。
最後のコマで、もらったトイプードルのオイルを手になじませ、髪につけながら鏡の中の自分と向き合う描写。
○場面転換/学校・教室
朋音「──ねえ、聞いてる!? 羽花!」
羽花「はっ」
上の空でぼんやりしてたところに、朋音のセリフで我に返る羽花。
→へら、と笑う。
羽花「ご、ごめん、ぼーっとしてて……何の話だっけ」
朋音「だーかーら、今週の土曜日は予定空けといてねって話!」
羽花「あ、ああ! そうだったね! うん! 了解!」
真綾「羽花ちゃん、なんか先週末からずっとぼーっとしてない? なんかあったの?」
羽花「え!? い、いや、何も」
訝しげな二人と、ぎこちなく挙動不審な羽花のやり取り。
→「それならいいけど~」みたいな感じで、朋音と真綾はまた話し始める。
羽花は頬を赤らめてうつむき、一人で考えごと。
羽花(うぅ、この前希一くんに抱きしめられたことが、頭から離れない……)
(あれからまだ会ってないし、連絡もしてないけど……そろそろまた美容室に呼ばれる頃だと思うし……)
(早く会いたい……けど、ど、どんな顔で会えば……)
※羽花と希一は、あれから5日ぐらい会ってないし、連絡も取ってない。
朋音「土曜日、何時に集まる?」
真綾「9時でいいんじゃない〜? ね、羽花ちゃん」
悶々と考えていると、急に話を振られ、羽花がビクッと顔を上げる。
羽花「へ!? あ、うん、9時で、大丈夫……だけど、えっと……」
朋音「ん?」
羽花「……どこ行くんだっけ?」
聞きにくそうにたずねると、朋音が呆れ顔。
朋音「は〜!? ちょっと、羽花、本当に大丈夫? バイトのしすぎで疲れてない?」
真綾「ほら、土曜日の東高の体育祭、みんなで見に行こうって言ってたでしょ? 思い出した?」
羽花「あ、そっか、そうだったね! 東高の……」
にこりと笑って手を叩く羽花。
→しかし、すぐに目を見開く。
羽花「……東高の体育祭っ!?」
○場面転換/放課後・帰り道
複雑な表情をしながら、一人でとぼとぼ帰る。
羽花(体育祭……そっか、東高って10月が体育祭なんだ……そっかぁ~……)
(ど、どうしよ、希一くんもいるよね。会えるの嬉し……じゃなくて、わたし、いつも通りに喋れるかな)
(なんか最近、希一くんのこと考えると、胸がおかしく……)
抱きしめられた時のことをまた思い出す。
→顔真っ赤にして首を横に振る。
羽花(い、い、いや、あれは事故だから、ただの事故)
(希一くんって実はわたしのこと好きなんじゃ……とか、そんなのただの妄想で! わたしが! ただ! そう思い込みたいだけで!)
(あ、あれ? でも、そう思い込みたいってことは、わたし、希一くんに好きになってもらいたいって思ってるってことで……あ、あれれ?)
色んなことを考えていると、目の前に電柱が。
──ごちんっ。
羽花「あいたっ!」
??「……ふっ」
電柱にぶつかった瞬間、後ろから笑い声。
→振り向くと、希一が口元を押さえて肩を震わせている。
ドキーッとして真っ赤になる羽花。
希一「ふっ、くく……っ!」
羽花「き、き、希一くん……!? い、いつからそこに……!」
希一「そこの曲がり角で、たまたま見えたから、同じ方向に曲がってみたら……ふ、くくくっ……」
めちゃくちゃ笑われ、羽花はさらに恥ずかしくなる。
→顔を上げられずにいると、希一は隣へ歩いてくる。
希一「はー、面白いもん見た。犬も歩けば棒に当たるって本当なんだな」
羽花「……い、犬じゃないもん」
希一「でも今日、〝トイプードル〟使ってんだろ。俺の手と同じ匂いする」
サラ、と髪を掬われ、さりげなく匂いを嗅がれる。
ドキドキして顔を上げると、いつもよりかっこよく見える希一と近い距離で目が合う。
→一際大きく胸が脈打つ。
羽花(あ)
(どうしよう)
(わたし、これ、本当に……)
自分の気持ちを自覚しそうになる中、希一は自分の手の甲を羽花の鼻の前へ。
希一「ほら、嗅いでみ。この匂い、ヘアオイルと同じだろ?」
羽花「……う、うん」
(ハンドクリーム、使ってくれてる……)
希一「な? 今日、俺とお前、トイプーでおそろい」
「じゃあ、俺も電柱にぶつからなきゃじゃん。犬も歩けばなんとやら〜」
機嫌がいい様子で、冗談交じりに歩き始める希一。
羽花も慌てて彼を追いかける。
→並んで歩くが、緊張して無言に。
羽花(どうしよう、ドキドキする……)
(いつも何話してたっけ……)
無言のまま歩く二人。
羽花は俯き気味で、耳まで真っ赤。
→希一はその横顔をチラッと見て、頬を掻く。
希一「……あのさ」
羽花「は、はい」
希一「この前の、ほんとに、忘れていいから」
羽花「え」
希一「なんか、あの時は、俺もどうかしてたっていうか……こんな風に、変な空気にさせるつもりじゃなかったっていうか」
希一なりに気を遣って言葉を発している。
だが、羽花はガーンと少しショックを受ける。
羽花(え……忘れていいって……この前、抱きしめられたことだよね)
(俺もどうかしてたって何? 変な空気って何? あれ? もしかして、わたし、一人だけで思い上がってる?)
(希一くんは、わたしのことなんて、実は何とも思ってない……?)
思考がどんどんマイナス思考に。
→過去のトラウマのせいで、人からどう見られているか不安になり、過剰に考えてしまう癖がついている。
羽花(あのこと、忘れないと、だめ?)
両手をぎゅっと握り込む。
希一「ほら、俺も忘れるからさ……だから、なんつーか、あんま気にしないで、いつも通りに──」
羽花「いやだ……」
希一「え……」
羽花「……わたし、忘れたくない……!」
「絶対忘れてあげないからね!」
俯きがちだった顔を上げ、真っ赤な顔と涙目で希一を見上げる。
→希一は驚いた顔で固まる。
羽花「き、希一くん、あの時わたしに言ったでしょ? 好きでもない男にくっつかれてイヤじゃないのかって」
希一「……うん」
羽花「そのセリフ、そのまま希一くんに返してやる! 希一くんこそ、好きでもない女の子にくっついて、イヤじゃないの? 抱きしめて大丈夫なの? 誰にでもあんなことするの?」
希一「……」
羽花「わ、わたしっ……わたしは……希一くんにくっつかれても、い、イヤじゃ、なかった」
「……あの、わたし……恋愛するのとか、まだよく分からなくて……正直、恋とか、好きとか、うまく言えないけど……」
「けど……わたし、希一くんとなら、そういうのも──」
希一「待って」
勢いのまま色々言いかけたところで、希一がストップをかける。
→希一は俯きがちに、自分の顔を片手で隠すように覆っている。
希一「……いきなりそういうこと言うの、よくないと思うんですが」
羽花「え……っ。あ、ごめんなさい……やっぱり、いきなりこんなこと言ったら、気持ちわる──」
希一「違う。そうじゃない」
「そうじゃ、なくて……」
「……」
顔は隠しているが、耳が赤い希一。
→ひそかに深呼吸して、ぽつぽつと語り始める。
希一「……俺さ、思ったこと何でもすぐ言葉にしちゃうの。相手に嫌われようがどうでもいいって思って、トゲ生えたまま、何でも言葉にしちゃうわけ」
羽花「あ、ああ……うん……」
希一「でも、藤村さんと再会して、一緒にいて、話したりしてるうちにさ。すげーことに気づいたんだよ、俺」
羽花「? すげーこと?」
希一「うん。……俺、嫌われてもどうでもいいやつに対しては、思ったことなんでも口に出せるくせに──」
「──相手に好かれようとしたら、全然、うまく言葉にできない」
希一は顔を隠している指の間から、じっと羽花を見る。(羽花はドキッとする)
→そのまま羽花の手を掴む。
希一「……くっついていい?」
羽花「……え!? い、今!?」
希一「イヤ?」
羽花「だって、ここ、住宅街だし……」
希一「俺はどこでも触りたいし、くっつきたい」
羽花「ひえ……!?」
とんでもない言葉と一緒に指を絡められ、羽花は頬を赤らめる。
→しかし、希一は深い息を吐き、空いてる方の手で自分の口元を押さえる。
希一「……あー、やっぱだめだ。また寒いっていうか、キモいこと言った、俺……」
羽花「い、いや、別にキモくはないので……」
希一「自分で自分がキモいんだよ、こんなこと言うような柄じゃないのに。お前のせいだぞ、責任取れ」
ぶっきらぼうに言って、希一は羽花を引き寄せて肩に顔を埋める。
羽花はドキッとしながら、抱擁(というより本当にくっつかれてるだけ)を受け入れる。
羽花「……っ」
希一「……やっぱ、俺とおそろいの匂いする」
羽花「そ、そ、そっか」
希一「でも、藤村さんの匂いもする。落ちつく」
羽花「そ、そ、それはよかった……けど……!」
(わたしは全然落ち着かないよ!!)
そわそわする羽花。
→希一は軽く頬擦りして、羽花の髪を掻き上げ、耳元に唇を寄せる。
希一「……あのさ」
「俺、お前に、ずっと前から──」
??「ああああーーー!」
しかし、その時、誰かの声が響く。
→希一はガバッと顔を上げ、即座に羽花から離れる。
振り返ったところにいたのは、希一の兄・雄太。
チャリを跨いだ状態で立ち止まり、二人にスマホを向けている。
→希一がみるみる怖い顔に。
希一「テメェ何撮ってんだ」
雄太「この大スクープを家族ラインに放たないわけには」
希一「消せコラ」
雄太「やだ〜、希一くんったらこわぁい。あ、どうも弟がお世話になっております〜、兄の雄太で、いてててて!!」
希一は兄の足を踏み、スマホを奪って、たった今撮られた動画を消す。
雄太「いってーな、路上で見せつけてたのお前だろ! 撮られても文句言うなよ!」
希一「うるせえ、黙って立ち去れよノンデリ兄貴!」
などと喧嘩し始めた兄弟の隣で、羽花は真っ赤になり、ペコペコお辞儀。
羽花「そ、それじゃ、わたし、帰るね……!」
希一「えっ」
羽花「ばいばい!」
希一「あ、ちょっと待った!」
慌てて羽花を捕まえる。
希一「……次、いつ会える?」
問いかけると、羽花は目を泳がせ、たどたどしく答える。
羽花「……こ、今週、の」
希一「今週の?」
羽花「土曜日……東高の、体育祭、行くから……」
希一「──え」
体育祭、と言われた瞬間、希一の表情は露骨に曇る。
→その様子に、羽花も(あれ?)みたいに違和感を感じとる。
希一「……来んの? 体育祭」
羽花「うん……。だ、だめ?」
希一「……」
かなり渋っている様子の希一。
羽花が心配そうに眉尻を下げると、そこに雄太が割り込む。
雄太「いや、全然だめじゃないって! 来なよ、大歓迎! 俺、応援団長やるんだよね! コイツと団は違うけど応援して〜!」
希一「おい、兄貴! 入ってくんな!」
雄太「ケチケチすんなよ、何イヤがってんだ? 他の男に可愛いカノジョ見せたくないだけだろ、どうせ」
希一「違うって、そういうのじゃない! そういうのじゃ、なくて……」
言いづらそうにして、希一は羽花の顔をちらりと見る。
→露骨に来て欲しくなさそうな様子。
羽花は目を泳がせ、なんとなく居づらさを感じ、「そ、それじゃ、もう帰るね……」と告げると、逃げるようにその場を去っていく。
希一「あ……」
何か言いたげにする希一が手を伸ばすが、羽花はもう角を曲がって見えなくなっている。
希一「……」
雄太「あーあ、逃げられちゃった」
希一「お前のせいだろ」
雄太「いたっ!」
肘で脇腹を殴られた雄太。
わめく兄を無視して、希一は暗い目をしながら前髪を握り込み、はあ、とため息を吐いた。
希一「……アイツと、会わなきゃいいけど……」
東高の制服を着た誰か(ヤンキーっぽい)の後ろ姿を描写して、第8話終了。
〈第8話 終わり〉