【漫画シナリオ】きみの魔法に恋は絡まる
第9話
○体育祭当日。
場所:東高
東高=共学。公立のマンモス高。
人が多い中、朋音、真綾のうしろをついていく羽花。
羽花(来ちゃった……体育祭……)
羽花はそわそわ。
朋音と真綾はうきうき。
朋音「いやー、さっすが東高! ウチらの高校とは比べ物にならない人の数だね」
真綾「普通にカップルとかいるじゃん、共学ってむかつく〜」
朋音「わかる、部員とマネージャーで恋に落ちたりすんだろな」
真綾「はわあ〜、マーヤたちとは住む世界が違うわあ〜」
朋音と真綾がそんな話をする中、羽花はそわそわしながらキョロキョロ。
→朋音が振り返る。
朋音「羽花、アンタ、あのイケメンくん探してるんでしょ」
羽花「うぇ!? い、いや、別に……」
真綾「はい嘘〜。羽花ちゃんってほんとわかりやすいよね。あーあ、マーヤにもそのドキドキを分けてほし〜」
羽花(うぅ……いろんな意味でドキドキしてるよ……)
先日、希一に『体育祭に行く』と言った時、露骨にイヤな顔をされたことを思い出す羽花。
→あのあとメッセージも送ってみたが、『体育祭、わたしが来るのイヤ?』と問いかける羽花に対し、『別に来てもいいけど、ちょっと微妙かも』みたいに、曖昧に濁されている。
羽花(来てよかったのかな……。トモちゃんとマーちゃんが行く気満々だったから、断りきれなかったけど……)
→「体育祭で良い男と出会うぞ!」「おー!」と気合いを入れていた朋音&真綾の回想を軽く描写。
羽花(人が多すぎて、どこにいるのか全然わかんないや)
(そういえばどの団なのかも知らないなあ、希一くん……)
キョロキョロしている羽花。
→すると、真綾が「うわ! ねえ、見て!」と声を上げる。
真綾「あの人、すごいかっこいい! ほら、黄色のハチマキで学ランの!」
朋音「うわ、ほんとだ。応援団長っぽいね〜」
羽花(ん? 応援団長?)
二人の指さす先に目を向けると、希一の兄・雄太がいる。
→お互いに目が合い、「「あっ!」」と声をそろえる羽花と雄太。
羽花「希一くんのお兄さん!」
雄太「希一のカノジョ!」
↑同時に言ってる。
朋音と真綾は「え、知り合い?」みたいな顔で羽花を見る。
雄太「わ〜、ほんとに来てくれたんだ! お友達も一緒? こんにちは」
朋音・真綾「「こ、こんにちは〜♡」」
雄太「希一は? 会った?」
羽花「あ、いえ……さっき来たばっかりで……まだ……」
雄太「マジ? 赤団のテントの方に行けば会えると思うけど、俺からも連絡しとくよ。カノジョちゃん来てたよ〜って」
羽花「えっと、あの、わたしカノジョとかではなくて……!」
雄太「はい、笑って笑って! ピース! お友達も!」
気さくな雄太がスマホを向ける。
→羽花・朋音・真綾の三人でパシャリ。(朋音と真綾は笑顔でノリノリ、羽花はたじたじ)
→雄太はスマホで希一に『カノジョ発見した〜』とメッセージをつけて写真を送りつけ、じっと羽花の顔を見る。
雄太「……」
羽花「……? あの?」
雄太「いや〜、俺、この前会った時から、どっかで君の顔見たことあると思ってたんだけどさあ……」
羽花「?」
雄太「もしかして、君……小学生の頃、希一とクラス一緒だったりする?」
顎に手を当て、羽花に顔を近づける雄太。
羽花はきょとんとまばたきをしながら頷く。
羽花「え、あ、はい。途中で転校したんですけど──」
雄太「あーーっ、やっぱり!! 〝卒アル〟の子だ!!」
羽花「へ!?」
突然の大声にビクッとしながら、羽花は首を傾げる。
雄太はハッとして「あっ、やべ」みたいな感じで自分の口元を押さえる。
→キョロキョロして周りを確認。(希一がいないか確認してる)
雄太(あっぶね〜。今の、希一に聞かれたらぶん殴られるとこだった……)
羽花「あの、卒アルって何のことですか?」
雄太「え!? い、いや、なんでもない! あはは……!」
何か知っている風の雄太。
羽花はよく分かっていない。
→話していると、うしろから雄太が呼ばれる。
モブ生徒「雄太〜、アンタ出番だよ! 先生が呼んでる!」
雄太「あっ、分かった、すぐ行く!」
「ごめん、行かなきゃ。またね。お友達も」
朋音・真綾「「は〜い♡」」
雄太は軽く手を振り、去っていく。
→雄太を見送ったあと、朋音と真綾は顔を見合わせる。
朋音「あー、びっくりした。急にイケメンに話しかけられて焦ったわ」
真綾「あの人、羽花ちゃんの好きぴのお兄さん? 兄弟そろって顔面偏差値たか〜」
朋音「てか、あの人、赤団の方に行けばイケメンくんに会えるって言ってたよね。行ってみよ!」
真綾「さんせ〜い!」
テンション高めに歩き出す二人。
羽花も「うん……」と言いつつ、二人に続く。
羽花(卒アル……卒アルって、卒業アルバムだよね? 小学校の)
(でも、わたし、小学五年生になる前には転校したから、卒業アルバムには映ってないはずだけど……)
(うーん、何のことだろ……?)
考え事をしながら歩く。
→ややあって、ふと顔を上げると、朋音たちがいない。
羽花「……あれ?」
慌てて周りを見る。
しかし、どこにも二人が見当たらない。
羽花(うわ、やばい! はぐれた!!)
焦る羽花。
→多分赤団の方にいるだろうと考えて進む。
→しかし、どこにもいない。
▽二十分後……。
羽花(全然合流できない……)
ぽつん、と一人でグラウンドの隅へ。
羽花(どこ行ったの、二人とも……)
(最悪なことにスマホは充電切れてるし……充電器のコンセント抜けてたのかも……泣きそう……)
(い、いや、落ち着こう。ぼんやりしてたわたしが悪いよね。大丈夫、まだ近くにいるはずだし)
??「なあ、アンタ」
「一人で泣きそうな顔してどうした? 友達とはぐれた?」
ふと、誰かに話しかけられる。
振り向くと、赤いハチマキを巻いた見知らぬ男子が三人。
羽花「あ、いえ、その……大丈夫なので……」
男子「さっき、はぐれた友達探してる西商業の子たちいたけど、アイツらが探してた子?」
羽花「えっ、本当ですか!? その子たち、どの辺に……」
男子「連絡先聞いたし、電話かけてやろっか?」
羽花「ああっ、助かります! 充電切れちゃって! ありがとうございま……」
(あれ? この人の顔、どこかで見たことあるような)
話しかけてきた男子に見覚えがある。
→見た目:ヤンキーっぽい短髪。三白眼。眉毛細い。
→ふとジャージの刺繍を見ると、『真鍋』と刺繍してある。
羽花(真鍋……)
脳裏によみがえったのは、小学生の頃の、いじめっ子のリーダー。
(軽く回想)
大輝『やーい、トイプー頭!』
『今日も変な髪の毛してんな!』
『あははは!』
(回想おわり)
記憶の中にいる大輝と、目の前の男子の面影が重なる。
羽花は硬直し、目を見開く。
羽花「……ダイくん……?」
ぽつりと口に出すと、「えっ」と顔を上げる大輝。
→今度は大輝がみるみる目を見張る。
大輝「お前……」
羽花「……!」
大輝「トイプー頭の……?」
大輝の目の色が変わり、羽花はサッと青ざめる。
→咄嗟に逃げようとすると、腕を強く掴まれる。
大輝「おい、ちょっと待てよ」
羽花「……っ」
大輝「……ははっ。嘘だろ、マジか? 何、この偶然」
「お前さ、久しぶりの再会なのに、逃げるとか酷いじゃん」
「俺、覚えてんぞ。お前のこと……」
不敵に微笑む大輝。
羽花は青ざめて狼狽える。
→やや睨んでいた大輝だが、羽花の様子を見て、捕まえてる手の力が徐々に緩む。
→周りにいたモブが首を傾げる。
大輝「……」
モブ「何、大輝、知り合い?」
大輝「……んー、まあ」
モブ「えー、可愛いじゃん。連絡先教えて」
大輝「うっせえ、黙ってろよ。一旦俺が話すから」
モブ「……そんな睨むなよ、怖い怖い」
他の二人を牽制し、大輝が羽花と向き合う。
羽花はビクッと震えて俯く。
羽花(なんで、ダイくんがここに)
(やだ、こわい)
(声が出ない)
大輝「……お前、西商業だったんだ。知らなかった」
羽花「……」
大輝「実はさあ、お前よりちょっとあとに、俺もこっちに引っ越してたんだよ。色々あって、中学から」
羽花「……」
大輝「つーか、俺のこと覚えてる……よなあ? その反応だと」
「何年振りだっけ、会うの。元気だった?」
羽花「……」
大輝「でも、正直、また会えると思ってなかった」
「都会って人多いし。学校も多いし」
「すれ違っても、気軽に挨拶されることすらねーし……」
羽花「……」
大輝「……なあ、そろそろなんか言えば? そんなに俺のこと嫌いかよ」
「っていうか……」
「何、この髪の毛」
ストレートになっている羽花の髪に、大輝が触れようとする。
→昔、『変な髪の毛!』と笑われたことを思い出して、ぎゅっと目を閉じる羽花。
しかし、その瞬間、後ろから誰かに引き寄せられる。
羽花「……!」
ハンドクリームの匂いがして、振り向くと、希一と目が合う。
→引き寄せたのは希一だった。
大輝「! 希一、お前──」
希一「羽花の髪に触んな」
希一は大輝を冷たく睨んで牽制する。
大輝は困惑した表情で狼狽え、羽花と希一を交互に見る。
大輝「……は? 何? お前ら、どういう関係……」
希一「うっせーな、お前に教える必要ねーだろ。じゃあな」
大輝「はあ!? おい、待てよ希一! お前──」
希一「──羽花の髪、誰に触られてもむかつくけど」
希一は振り向き、大輝を睨む。
希一「……お前が一番むかつく。二度と触んな」
冷たく、低い声で威圧する希一。
大輝はたじろぎ、何かの言葉を言いかけたが、何も言えずに飲み込んで目を逸らす。
→希一は羽花を連れてその場を去る。
残された大輝は、歯がゆげに下唇を噛み締め、手のひらを握り込んでいた。
○場面転換/場所:ひとけのない校舎の裏。花壇の前。
希一「ここなら誰も来ないだろ。みんなグラウンドにいるし」
羽花「……」
希一「……大丈夫? 藤村さん」
花壇の縁に腰を下ろして俯いている羽花の前で、しゃがみ込む希一。
希一「一人で来たの? 友達は?」
羽花「……途中で、はぐれて……」
希一「その友達って、兄貴から送られてきた写真に写ってた二人?」
羽花「……うん……」
希一「そっか」
羽花はぽつぽつと答えていたが、やがて希一と目を合わせ、じわじわと瞳を潤ませる。
羽花「……う、ぅ……」
希一「……」
羽花「……ううう……」
色々と限界が来て、とうとう泣き出してしまう羽花。
→希一は嘆息し、優しく羽花の頭を撫でる。
希一「……ごめん。やっぱ言っとくべきだった。大輝がいること」
羽花「……ぐすっ……ひっく」
希一「アイツがいたから、今日、あんま来てほしくなくて……でも、不安にさせるかもと思ってハッキリ言えなかった。ごめん」
羽花「……わたし……」
「わたし、何も、変われてなかった……」
涙を落としながら、悔しそうな顔をする羽花。
希一は少しだけ目を見開く。
羽花「髪の毛、まっすぐにして、自分を変えられたと思ってたの……弱い自分と、さよならできたと思ってたの……」
希一「……」
羽花「変な髪じゃなくなったら、ダイくんの前でも、きっと強くいられると思ってたし……」
「いつかダイくんに会ったら、文句言ってやるって……ずっと、思ってたんだよ……」
↑吐露しながら、『トイプー頭』の頃の弱かった自分を思い返すような描写。
悔しそうに拳を握る。
羽花「でも、わたし、ダイくんの前で、何も声が出なかった……あの頃と、何ひとつ変われてなかった……」
希一「……」
羽花「……こわかった……」
さらに泣きじゃくる羽花。
→希一は黙って耳を傾けながら、羽花の目尻に浮かぶ涙を見て眉をひそめる。
→小学生の頃、いつも大輝から泣かされていた羽花の姿を思い出す。
希一「……むかつく」
やがて、ぽつりと希一がひとこと。
羽花は涙ぐみながら「へ……?」と顔を上げる。
→希一が羽花の後頭部へ手を回す描写。
希一「今、羽花が大輝のこと考えて泣いてると思ったら、むかつく」
直後、ぐっ、と羽花を引き寄せる。
→唇が重なる。
→羽花、目を見開いて思考停止。
→涙も引っ込む。
羽花(え……?)
(え?????)
(待って)
(今、これ、キ……)
しばらくして唇が離れたあと、呆然としている羽花と、不機嫌そうな顔の希一。
希一「とりあえず、一旦俺のことだけ考えてて」
羽花「……は……」
希一「で、今日はもう帰りな。また俺がいないとこで大輝に絡まれたらやだし。はぐれた友達は俺が探して適当に説明しとくし」
羽花「……え……」
希一「返事は?」
羽花「は、はい」
希一「よし」
呆然としている羽花にまくしたて、希一は羽花の手を握って立ち上がらせる。
希一「行こ。門の外まで送る」
羽花「う、うん……」
希一「そこ、ちょっと段差あるから気をつけて」
羽花「……うん……」
羽花の前を歩いて、振り向きもせず言う希一。
一方、頭の中から完全に大輝のことが消え、希一のことばかりになった羽花。
羽花(えっ、えっ……さっき、何が……えっ?)
(……えええええっ!?)
とんでもない速度で動き出した心臓の音を聞きながら、羽花は顔を紅潮させ、体育祭を後にした。
〈第9話 終わり〉
場所:東高
東高=共学。公立のマンモス高。
人が多い中、朋音、真綾のうしろをついていく羽花。
羽花(来ちゃった……体育祭……)
羽花はそわそわ。
朋音と真綾はうきうき。
朋音「いやー、さっすが東高! ウチらの高校とは比べ物にならない人の数だね」
真綾「普通にカップルとかいるじゃん、共学ってむかつく〜」
朋音「わかる、部員とマネージャーで恋に落ちたりすんだろな」
真綾「はわあ〜、マーヤたちとは住む世界が違うわあ〜」
朋音と真綾がそんな話をする中、羽花はそわそわしながらキョロキョロ。
→朋音が振り返る。
朋音「羽花、アンタ、あのイケメンくん探してるんでしょ」
羽花「うぇ!? い、いや、別に……」
真綾「はい嘘〜。羽花ちゃんってほんとわかりやすいよね。あーあ、マーヤにもそのドキドキを分けてほし〜」
羽花(うぅ……いろんな意味でドキドキしてるよ……)
先日、希一に『体育祭に行く』と言った時、露骨にイヤな顔をされたことを思い出す羽花。
→あのあとメッセージも送ってみたが、『体育祭、わたしが来るのイヤ?』と問いかける羽花に対し、『別に来てもいいけど、ちょっと微妙かも』みたいに、曖昧に濁されている。
羽花(来てよかったのかな……。トモちゃんとマーちゃんが行く気満々だったから、断りきれなかったけど……)
→「体育祭で良い男と出会うぞ!」「おー!」と気合いを入れていた朋音&真綾の回想を軽く描写。
羽花(人が多すぎて、どこにいるのか全然わかんないや)
(そういえばどの団なのかも知らないなあ、希一くん……)
キョロキョロしている羽花。
→すると、真綾が「うわ! ねえ、見て!」と声を上げる。
真綾「あの人、すごいかっこいい! ほら、黄色のハチマキで学ランの!」
朋音「うわ、ほんとだ。応援団長っぽいね〜」
羽花(ん? 応援団長?)
二人の指さす先に目を向けると、希一の兄・雄太がいる。
→お互いに目が合い、「「あっ!」」と声をそろえる羽花と雄太。
羽花「希一くんのお兄さん!」
雄太「希一のカノジョ!」
↑同時に言ってる。
朋音と真綾は「え、知り合い?」みたいな顔で羽花を見る。
雄太「わ〜、ほんとに来てくれたんだ! お友達も一緒? こんにちは」
朋音・真綾「「こ、こんにちは〜♡」」
雄太「希一は? 会った?」
羽花「あ、いえ……さっき来たばっかりで……まだ……」
雄太「マジ? 赤団のテントの方に行けば会えると思うけど、俺からも連絡しとくよ。カノジョちゃん来てたよ〜って」
羽花「えっと、あの、わたしカノジョとかではなくて……!」
雄太「はい、笑って笑って! ピース! お友達も!」
気さくな雄太がスマホを向ける。
→羽花・朋音・真綾の三人でパシャリ。(朋音と真綾は笑顔でノリノリ、羽花はたじたじ)
→雄太はスマホで希一に『カノジョ発見した〜』とメッセージをつけて写真を送りつけ、じっと羽花の顔を見る。
雄太「……」
羽花「……? あの?」
雄太「いや〜、俺、この前会った時から、どっかで君の顔見たことあると思ってたんだけどさあ……」
羽花「?」
雄太「もしかして、君……小学生の頃、希一とクラス一緒だったりする?」
顎に手を当て、羽花に顔を近づける雄太。
羽花はきょとんとまばたきをしながら頷く。
羽花「え、あ、はい。途中で転校したんですけど──」
雄太「あーーっ、やっぱり!! 〝卒アル〟の子だ!!」
羽花「へ!?」
突然の大声にビクッとしながら、羽花は首を傾げる。
雄太はハッとして「あっ、やべ」みたいな感じで自分の口元を押さえる。
→キョロキョロして周りを確認。(希一がいないか確認してる)
雄太(あっぶね〜。今の、希一に聞かれたらぶん殴られるとこだった……)
羽花「あの、卒アルって何のことですか?」
雄太「え!? い、いや、なんでもない! あはは……!」
何か知っている風の雄太。
羽花はよく分かっていない。
→話していると、うしろから雄太が呼ばれる。
モブ生徒「雄太〜、アンタ出番だよ! 先生が呼んでる!」
雄太「あっ、分かった、すぐ行く!」
「ごめん、行かなきゃ。またね。お友達も」
朋音・真綾「「は〜い♡」」
雄太は軽く手を振り、去っていく。
→雄太を見送ったあと、朋音と真綾は顔を見合わせる。
朋音「あー、びっくりした。急にイケメンに話しかけられて焦ったわ」
真綾「あの人、羽花ちゃんの好きぴのお兄さん? 兄弟そろって顔面偏差値たか〜」
朋音「てか、あの人、赤団の方に行けばイケメンくんに会えるって言ってたよね。行ってみよ!」
真綾「さんせ〜い!」
テンション高めに歩き出す二人。
羽花も「うん……」と言いつつ、二人に続く。
羽花(卒アル……卒アルって、卒業アルバムだよね? 小学校の)
(でも、わたし、小学五年生になる前には転校したから、卒業アルバムには映ってないはずだけど……)
(うーん、何のことだろ……?)
考え事をしながら歩く。
→ややあって、ふと顔を上げると、朋音たちがいない。
羽花「……あれ?」
慌てて周りを見る。
しかし、どこにも二人が見当たらない。
羽花(うわ、やばい! はぐれた!!)
焦る羽花。
→多分赤団の方にいるだろうと考えて進む。
→しかし、どこにもいない。
▽二十分後……。
羽花(全然合流できない……)
ぽつん、と一人でグラウンドの隅へ。
羽花(どこ行ったの、二人とも……)
(最悪なことにスマホは充電切れてるし……充電器のコンセント抜けてたのかも……泣きそう……)
(い、いや、落ち着こう。ぼんやりしてたわたしが悪いよね。大丈夫、まだ近くにいるはずだし)
??「なあ、アンタ」
「一人で泣きそうな顔してどうした? 友達とはぐれた?」
ふと、誰かに話しかけられる。
振り向くと、赤いハチマキを巻いた見知らぬ男子が三人。
羽花「あ、いえ、その……大丈夫なので……」
男子「さっき、はぐれた友達探してる西商業の子たちいたけど、アイツらが探してた子?」
羽花「えっ、本当ですか!? その子たち、どの辺に……」
男子「連絡先聞いたし、電話かけてやろっか?」
羽花「ああっ、助かります! 充電切れちゃって! ありがとうございま……」
(あれ? この人の顔、どこかで見たことあるような)
話しかけてきた男子に見覚えがある。
→見た目:ヤンキーっぽい短髪。三白眼。眉毛細い。
→ふとジャージの刺繍を見ると、『真鍋』と刺繍してある。
羽花(真鍋……)
脳裏によみがえったのは、小学生の頃の、いじめっ子のリーダー。
(軽く回想)
大輝『やーい、トイプー頭!』
『今日も変な髪の毛してんな!』
『あははは!』
(回想おわり)
記憶の中にいる大輝と、目の前の男子の面影が重なる。
羽花は硬直し、目を見開く。
羽花「……ダイくん……?」
ぽつりと口に出すと、「えっ」と顔を上げる大輝。
→今度は大輝がみるみる目を見張る。
大輝「お前……」
羽花「……!」
大輝「トイプー頭の……?」
大輝の目の色が変わり、羽花はサッと青ざめる。
→咄嗟に逃げようとすると、腕を強く掴まれる。
大輝「おい、ちょっと待てよ」
羽花「……っ」
大輝「……ははっ。嘘だろ、マジか? 何、この偶然」
「お前さ、久しぶりの再会なのに、逃げるとか酷いじゃん」
「俺、覚えてんぞ。お前のこと……」
不敵に微笑む大輝。
羽花は青ざめて狼狽える。
→やや睨んでいた大輝だが、羽花の様子を見て、捕まえてる手の力が徐々に緩む。
→周りにいたモブが首を傾げる。
大輝「……」
モブ「何、大輝、知り合い?」
大輝「……んー、まあ」
モブ「えー、可愛いじゃん。連絡先教えて」
大輝「うっせえ、黙ってろよ。一旦俺が話すから」
モブ「……そんな睨むなよ、怖い怖い」
他の二人を牽制し、大輝が羽花と向き合う。
羽花はビクッと震えて俯く。
羽花(なんで、ダイくんがここに)
(やだ、こわい)
(声が出ない)
大輝「……お前、西商業だったんだ。知らなかった」
羽花「……」
大輝「実はさあ、お前よりちょっとあとに、俺もこっちに引っ越してたんだよ。色々あって、中学から」
羽花「……」
大輝「つーか、俺のこと覚えてる……よなあ? その反応だと」
「何年振りだっけ、会うの。元気だった?」
羽花「……」
大輝「でも、正直、また会えると思ってなかった」
「都会って人多いし。学校も多いし」
「すれ違っても、気軽に挨拶されることすらねーし……」
羽花「……」
大輝「……なあ、そろそろなんか言えば? そんなに俺のこと嫌いかよ」
「っていうか……」
「何、この髪の毛」
ストレートになっている羽花の髪に、大輝が触れようとする。
→昔、『変な髪の毛!』と笑われたことを思い出して、ぎゅっと目を閉じる羽花。
しかし、その瞬間、後ろから誰かに引き寄せられる。
羽花「……!」
ハンドクリームの匂いがして、振り向くと、希一と目が合う。
→引き寄せたのは希一だった。
大輝「! 希一、お前──」
希一「羽花の髪に触んな」
希一は大輝を冷たく睨んで牽制する。
大輝は困惑した表情で狼狽え、羽花と希一を交互に見る。
大輝「……は? 何? お前ら、どういう関係……」
希一「うっせーな、お前に教える必要ねーだろ。じゃあな」
大輝「はあ!? おい、待てよ希一! お前──」
希一「──羽花の髪、誰に触られてもむかつくけど」
希一は振り向き、大輝を睨む。
希一「……お前が一番むかつく。二度と触んな」
冷たく、低い声で威圧する希一。
大輝はたじろぎ、何かの言葉を言いかけたが、何も言えずに飲み込んで目を逸らす。
→希一は羽花を連れてその場を去る。
残された大輝は、歯がゆげに下唇を噛み締め、手のひらを握り込んでいた。
○場面転換/場所:ひとけのない校舎の裏。花壇の前。
希一「ここなら誰も来ないだろ。みんなグラウンドにいるし」
羽花「……」
希一「……大丈夫? 藤村さん」
花壇の縁に腰を下ろして俯いている羽花の前で、しゃがみ込む希一。
希一「一人で来たの? 友達は?」
羽花「……途中で、はぐれて……」
希一「その友達って、兄貴から送られてきた写真に写ってた二人?」
羽花「……うん……」
希一「そっか」
羽花はぽつぽつと答えていたが、やがて希一と目を合わせ、じわじわと瞳を潤ませる。
羽花「……う、ぅ……」
希一「……」
羽花「……ううう……」
色々と限界が来て、とうとう泣き出してしまう羽花。
→希一は嘆息し、優しく羽花の頭を撫でる。
希一「……ごめん。やっぱ言っとくべきだった。大輝がいること」
羽花「……ぐすっ……ひっく」
希一「アイツがいたから、今日、あんま来てほしくなくて……でも、不安にさせるかもと思ってハッキリ言えなかった。ごめん」
羽花「……わたし……」
「わたし、何も、変われてなかった……」
涙を落としながら、悔しそうな顔をする羽花。
希一は少しだけ目を見開く。
羽花「髪の毛、まっすぐにして、自分を変えられたと思ってたの……弱い自分と、さよならできたと思ってたの……」
希一「……」
羽花「変な髪じゃなくなったら、ダイくんの前でも、きっと強くいられると思ってたし……」
「いつかダイくんに会ったら、文句言ってやるって……ずっと、思ってたんだよ……」
↑吐露しながら、『トイプー頭』の頃の弱かった自分を思い返すような描写。
悔しそうに拳を握る。
羽花「でも、わたし、ダイくんの前で、何も声が出なかった……あの頃と、何ひとつ変われてなかった……」
希一「……」
羽花「……こわかった……」
さらに泣きじゃくる羽花。
→希一は黙って耳を傾けながら、羽花の目尻に浮かぶ涙を見て眉をひそめる。
→小学生の頃、いつも大輝から泣かされていた羽花の姿を思い出す。
希一「……むかつく」
やがて、ぽつりと希一がひとこと。
羽花は涙ぐみながら「へ……?」と顔を上げる。
→希一が羽花の後頭部へ手を回す描写。
希一「今、羽花が大輝のこと考えて泣いてると思ったら、むかつく」
直後、ぐっ、と羽花を引き寄せる。
→唇が重なる。
→羽花、目を見開いて思考停止。
→涙も引っ込む。
羽花(え……?)
(え?????)
(待って)
(今、これ、キ……)
しばらくして唇が離れたあと、呆然としている羽花と、不機嫌そうな顔の希一。
希一「とりあえず、一旦俺のことだけ考えてて」
羽花「……は……」
希一「で、今日はもう帰りな。また俺がいないとこで大輝に絡まれたらやだし。はぐれた友達は俺が探して適当に説明しとくし」
羽花「……え……」
希一「返事は?」
羽花「は、はい」
希一「よし」
呆然としている羽花にまくしたて、希一は羽花の手を握って立ち上がらせる。
希一「行こ。門の外まで送る」
羽花「う、うん……」
希一「そこ、ちょっと段差あるから気をつけて」
羽花「……うん……」
羽花の前を歩いて、振り向きもせず言う希一。
一方、頭の中から完全に大輝のことが消え、希一のことばかりになった羽花。
羽花(えっ、えっ……さっき、何が……えっ?)
(……えええええっ!?)
とんでもない速度で動き出した心臓の音を聞きながら、羽花は顔を紅潮させ、体育祭を後にした。
〈第9話 終わり〉