偽りの聖女と罵るならお望み通りにこの国を出て行きます。あとはどうぞお好きにお過ごしください
「嘘ですっ!」

 私は強い声で否定する。
 まるで意味がわからず、悪人として仕立て上げられた事が認められないからだ。

「リシアは偽りを語っています。御存じでしょう? 私は聖女として神託を受け、その役目を今日という日まで果たしてきた。そのつもりです。一体、彼女の言うことに何の証拠があるというのですか?」

 しかし、殿下は私の言葉の聞く必要もないと言わんばかりに、遮るが如く冷たく言い放った。

「証拠など必要ではない。このリシアの純真の涙を見れば分かる。君のような醜い下衆と婚約を続けるわけにはいかない! この国の王族として、このような悪縁は断ち切らなければ国の災いにもなりえるからな! 私とて非情な決断に苦しいのだ。わかってもらえると信じているぞ」

 そういう彼の言葉は、到底己の判断に苦しんでるようには聞こえない。
 私は拳を握りしめた。冷静であろうと努めたが視界が滲む。
 いつも私が支える存在だったはずの殿下が、こんなにも簡単に私を見限るとは思わなかった。

 こんなに……!

「お姉様、もういい加減認めてください!」

 リシアが追い打ちをかけるように言う。彼女の声には確かな勝ち誇りが含まれていた。

 私は屈辱に塗れながらも深々と礼をし、その場を立ち去った。
 これ以上話をしても意味がないと悟ったのだ。誤解だとかは関係ない、私の存在そのものが彼らにとって疎ましいとわかった。
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop