この恋、延長可能ですか?
「なんかこっちまで緊張してきちゃった」
「Mitsuさん、良い人だといいね!」
「うん」
この日は自分史上特に大きな決断をした夜になった。
けれどもそれは当たり前に私だけで、〝Mitsu〟さんはそうとは限らず、その日彼からの連絡はなかった。
翌日のわたしときたら、最悪の目覚めだった。
さいあくだ、さいあくだ……!!
連絡を待っていたおかげでソファーで寝落ちしてしまい(あろうことか、メイクも落とさず)身体は至る所がかちこちで、節々の痛みとともに目が覚めた。
砂漠と化した肌を急いで救出し、急ピッチでシャワーを浴び、なんとかいつもの自分に変身する。と言っても、派手なスタイルが似合わないのでオフィスメイクは必要最低限。
シフォン素材のブラウスに膝下のスカートを揺らして、髪の毛はひとつに結んでメガネを掛け、完成。
私が務めているのは大手不動産会社。『何でお前が入社できたの?』『コネか』と周囲に実力は認めて貰えなかったほどだ。実際、私もこれで運が尽きたと思った。
花形の営業職でも、キャリアアップを望める開発部でもなく、事務仕事が多い総務部に在籍している。
堂々と聳える高層ビル。地上100メートルに位置するオフィスの片隅で、不条理に回される夥しい数の書類にひっそりと対峙する毎日。
「志麻さん、この分の打ち込みもお願いしていいですか?部長に呼ばれちゃって」
ふと、背中に聞きなれた声がぶつかる。片倉さんだ。
「わかりました。部長のサポート、お疲れ様です」
「うん。男からの頼みは伊達ちゃんに言ってね!じゃあ、よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
彼女は二つ上の先輩で、こんな風に気が遣えて、万年キノコを生やしていそうな見た目の私とは正反対。見た目からキラキラしていて、自分磨きに気を抜かない人だ。イコール、部長のお気に入りらしく、来客対応に度々呼ばれている。