この恋、延長可能ですか?
この空気をもたらしたのは何物でもないこの私なので、弁明も惚けることも却って逆効果だ。

さらに言えばこの残業は私の効率が悪いからでもない。食事が疎かなのも、早く終わらせたい一心で増え続ける仕事量を必死で捌いていたからだ。

「あと15分で、21時だね」

「そ……そうですね」

21時。すなわち、約束の時間という意味だ。
私と彼の間に再び緊張が走る。小林課長の時と、全く種類の違う緊張である。


「それまでに終わんなかったら、強制的にいつものホテルに連れ込みますよ」


張り詰めた糸が捩れた気がした。


「……!?あ、anemone関係ないって、いま言った……!」

「気が変わった」


ゆるやかに微笑んだ彼。ほどなくしてスマホが震えた。急ぎスマホを開いた。見慣れたメールの表示だった。

《デートの約束が追加されました》

私の意思とは反して追加された予定。

「料金は発生しないから安心してね、日和(ひより)チャン」

そのまばゆい笑顔に恐怖と、同等のときめきを感じる私を、誰か愚かな女だと罵ってほしい。


営業部の王子と、名も知られていない私のこんな関係。


残業の先は、トップシークレットでお願いします。
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