三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~

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「悪いが君のその大食いにはもう我慢ならない。婚約を取り止めさせてくれ」

 目の前の婚約者の言葉に、目を丸くしながら伯爵令嬢であるヴィオラは口をモグモグさせていた。

 ヴィオラは常に食べ続けなければ魔力を保持することができない。そればかりか、魔力が枯渇していくほどにヴィオラの体は蝕まれ命が削られてしまう。
 大食だからといってヴイオラは太っているわけではない。むしろ食べなければ魔力の消費と同じように体重は減っていき痩せ細ってしまうのだ。呪いなのか体質なのか、それは生まれてから今までずっと続いている。
 そのため、ヴィオラはいついかなる時でも手元に菓子パンやクッキーなどを詰め込んだバスケットを用意している。
 
「そうやっていつでもどこでも何かを食べてばかりいる。君の魔力を保つためには仕方がないことだとわかっているし、そうしなければ君の命が削られてしまうことだって理解しているさ。でもだ」

 ヴィオラの婚約者である伯爵令息のディーニーは気にくわないという顔でヴィオラを見つめた。

「そうやって口の中いっぱいに頬張るから両頬が膨らんでまるでリスのようだと周りから言われているんだぞ!?そんな女を婚約者にもつ俺の気持ちも考えてみろ」

(そんなこと言われても……婚約が決まった頃はそんな所も可愛らしいと言っていたのに)

 ディーニーの言葉を聞きながらヴィオラは食べ物を頬張ることを止めない。ヴィオラは気持ちが萎縮するとさらに食べ物を口に入れてしまい止まらなくなってしまうのだ。

「初めはそんな姿も可愛らしいと思ったさ。でももう飽き飽きだ。どうせ家同士の縁談だ、俺はもう他に良い縁談を見つけてきた。俺は今全てが好調なんだ。だから君のようなお荷物になりそうな女は必要ない」

 きっぱりと言い切るディーニーに、ヴィオラは何も言葉が出ずやはり口をモグモグとさせるしかなかった。
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