三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~

4

「よう、キール!婚約したらしいじゃないか」

 とある休日、キールとヴィオラの元に一人の来客者が訪れた。その男の名はサエル・ヒース。キールと同じ国の騎士団に所属しキールと同じ隊に所属している。
 赤茶色の短髪で背が高く騎士というだけあって鍛え上げられた体つきをしているが決して太くはない。人懐っこそうな表情をしていてまるで中型犬のようだとヴィオラは思った。

「朝から騒々しいな。何しに来た」
「なんだよ、連れないな。お前みたいな無表情で面白味のない男と婚約してくれるような優しい婚約者様に会いにきたんだよ」

 サエルの言葉にキールは大きくため息をついた。そのキールを見ながらヴィオラは不思議そうに食べ物を頬張っている。

「なるほど、これが噂の小リス令嬢か」
「おい!失礼だろ!」

 サエルの言葉にキールは思わず怒りを表すとサエルは珍しいものを見るように驚いた顔でキールを見た。

「……お前が他人のことで、しかも女性のことでそんなに怒るなんて珍しいな」
「当たり前だろ、婚約者だ」
「へぇ」

 キールの返事にサエルはニヤニヤとしながらキールとヴィオラの顔を交互に眺める。なんとなくいたたまれなくなってヴィオラはさらに食べ物を頬張ってしまい、ひたすらにモグモグと口を動かしている。

「その片手に下げているバスケットに食べ物が?そんなにずっと食べていて美味しいのか?」

 サエルがヴィオラにそう言うと、ヴィオラはごくんと食べ物を飲み込んでから口を開いた。

「お、美味しいです。サエル様も食べますか?」

 おもむろにバスケットから大きめのチョコチップクッキーを取り出してサエルに差し出した、その時。

 パクッとキールがヴィオラの手から直接クッキーを食べてしまう。モグモグと口を動かし飲み込んでから、キールは口を開いた。

「こんなやつにわざわざ渡す必要はない」

 なぜかムッとしながら言うキールをヴィオラは首をかしげて不思議そうに眺めた。そしてそんなキールを見てサエルは驚き、すぐに楽しそうに笑いだした。

「あーまじかー!お前、そうなのか!そうかそうか。なるほどね。いやぁ良いもの見たわ」
「なんだよ大声でうるさいやつだな」

 キールの目は鋭く怖い。出会ってから意外にも色々な表情を見れたと思っていたが、やっぱり黒豹騎士様なのだとヴィオラは少し震えた。

「おいおい、そんなんじゃ可愛い婚約者が怯えてしまうだろ。こんな奴だけど悪い男じゃないんだ、どうかこれからもよろしくな」

 爽やかな笑顔でそう言うサエルに、ヴィオラはなんとなくホッとして小さく頷いた。
< 10 / 34 >

この作品をシェア

pagetop