三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~
 そんなことであれば恐ろしすぎる。いくら魔力が枯渇してしまう身とはいえ、災害級の被害を起こす魔力を受け止め切れるのだろうか?

「あぁ、いや、そんなことしたら君は簡単に吹っ飛んでしまうだろう。そうではなく、魔術師の話だとただ常に俺のそばにいてくれれば良いそうだ。俺のそばにいるだけで俺から漏れ出る魔力が君に自然と吸収されていくらしい。それが常に行われることで、発作自体起こさなくなるだろう、とのことだ」

 キールの話にヴィオラはホッとした。災害級の魔力放出を受け止められる自信など毛頭なかったし、想像もつかなかった。

(ただ隣にいるだけ、なら別に何も問題はなさそう……あの怖い顔を除けばだけど)

「君は俺のそばにいる、ただそれだけだ。婚約して結婚するにしても、契約結婚だと思ってくれればいい。騎士の妻として最低限のことをしてくれれば、いついかなる時でも好きな時に好きなように食べ物を食べて構わない。俺はそのことについてとやかく言うつもりは無い、言える立場でもないしな」

 好きな時に好きなだけ食べ物を食べていい、その言葉がどれだけヴィオラにとって魅力的で効果的な言葉かキールは知らなかった。

「……わかりました、私、その役目をお引き受けします!」

 頬に詰め込まれたクリームたっぷりの菓子パンをモグモグと咀嚼してからごくりと飲みこみ、ヴィオラは両手の拳を握りしめて声高らかに宣言した。そんなヴィオラを見てキールはなぜか目を細める。

(え、こ、怖い、何か気分を害するようなことでも言ってしまったかしら……)

 キールの表情にヴィオラが怯えていると、キールはおもむろに席を立ち、ヴィオラの横に座った。

(え?何で?)

 驚きのあまりポカンとしているヴィオラの口の端をキールは指ですくい、指をヴィオラに見せた。

「クリーム、ついてたぞ」

 そう言って指のクリームを舐めとり、ククク、と笑う。その仕草がなぜか色っぽく見え、しかも笑った顔があまりに優しそうでヴィオラの胸は高鳴った。

(え、え、え、何これ……!?)

 ヴィオラの顔が一気に赤く染まり、それを見たキールは目を細めながら小さく微笑んだ。

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