三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~

3

 キールからなぜ自分が婚約者として選ばれたか説明を聞いたあと、ヴィオラはキールに屋敷の中を案内してもらっていた。

 屋敷は広く、どこもかしこも手入れが行き届いていて美しい。ヴィオラは食べている菓子パンやクッキーのカスが落ちてしまわないよう細心の注意を払って食べていた。



「ここが俺たちの寝室だ」

 そう言って案内された部屋には大きなベッドがひとつ置かれている。

(ん?俺たちの寝室って、私も一緒なの?)

「え、えっと、寝室も一緒なのですか?」
「契約結婚とはいえ夫婦になるんだから当たり前だろ。寝室は一緒だが君個人の部屋もちゃんと用意してあるから安心してくれ」

 キールの言葉にヴィオラは口をぱくぱくさせている。

「別に変なことはしないから心配するな。俺の魔力が安定するために側にいてもらわないと困る、それだけだ」

 そうだ、キールの魔力が放出されてしまえば災害級の被害が出てしまう。それを阻止するためにヴィオラはキールと常に一緒にいなければいけないのだ。

「わ、わかりました」

 動揺からなのかせっせと食べ物を口に頬張りながら返事をするヴィオラの頭を、キールは優しく撫でる。

(わ、わ、キール様に撫でられてる!?)

「悪いな、こんなことに巻き込んでしまって」

(こんな悲しそうで優しそうな顔もなさるんだ……)

 意外な表情にぼうっと見とれていると、キールがそっとヴィオラの顔に自分の顔を近づける。

(え、え?な、何!?)

「なんかすごい甘い匂いがすると思ったら、君の匂いか。菓子パンとかクッキーとか甘いものばかり食べてるもんな」

 すん、と鼻をかぐ音がしてからヴィオラの耳元でキールがそっと呟く。その良く響く声に思わずヴィオラの内側から何かがぶわっと沸き上がってくる。

 ヴィオラから離れるとキールはヴィオラの顔を見て目を大きく見開き、フッと微笑んだ。

「噂ではリスのようだと聞いていたが、本当にリスみたいに小さくて可愛いんだな」

 その言葉にヴィオラの顔はどんどん赤く染まっていく。それを見てキールはまた少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
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