甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
1-8 聖女は鯉のぼりに感心をする
楽しそうに、にこりと笑うノワルと目が合った。
「このテントに拡張魔法を使って、好きな大きさや家具を揃えたんだよ。花恋様の好みを聞きながら、もっと居心地のいい家に変えていこう」
ノワルの甘い笑顔に、あわあわと目を泳がせていると、ノワルが小型テントに近付き、『青、赤、黄、白、黒』色の彩度は控えめながら、存在感のある五色のショルダーバッグの蓋をぱかっと開いた。
小型テントがショルダーバッグに一瞬で消えるみたいに収納された。なんか色々おかしい。
「……。え?」
「これは吹き流しが、マジックバックになったものなんだ。見た目と違って沢山物が入る魔法の鞄だよ」
——ノワルが説明してくれる。
鯉のぼりの上に飾られているカラフルな布は『吹き流し』と呼ばれている。
吹き流しの五色は、万物を成す五つの要素『木・火・土・金・水』を表していて、悪いものから守ってくれる役割があるらしい。
だから、この吹き流しのマジックバックに荷物を入れておけば、持ち主や持ち主が認めた者以外は絶対に取り出すことが出来ないため、旅にぴったりらしい。
ノワルに言われて見てみると、確かにたっくんの鯉のぼりの吹き流しと同じ色だった。
マジックバックの蓋の部分には、私達四人が持ち主だと表す小指と同じウロコ模様が描かれている。
(たっくんの鯉のぼり、やっぱりすごい! 絶対に元の世界に戻って、たっくんにこの素敵な鯉のぼりを返さなきゃ……!)
改めて、たっくんに待っててね、と心の中で元の世界に戻ることを誓う。
「カレン様、今からここの結界も解きますね」
ロズがたっくんの鯉のぼりのポールの場所に立つ。
鯉のぼりのポールもマジックバックに収納するのかな、と思っていると、ロズがすぽっとポールを引き抜いた。
——ぽわん。
ポールが金色に輝くと、パッと金色の粉がキラキラと煌めきながら散って消えた。
消えて無くなると思っていなくて、驚いて目を見開いた。
「カレン様、大丈夫ですよ」
ロズは私の反応を楽しむように笑うと、ロズが握っていた手を私に見せるように、ぱっと開く。
「わあ、綺麗……」
雫型のイヤリングと玉飾りの付いたかんざしが、ロズの手のひらに乗っていた。
どちらも金色の金具と虹色に煌めくウロコが、柔らかい日差しにキラキラ反射していて、見ているだけで笑みが漏れてしまうくらい可愛い。
「カレン様にとてもよく似合いそうです。これは、鯉のぼりの回転球と矢車の部分です」
「えっ? これ、鯉のぼりの一部なの?」
「そうです。イヤリングとかんざしをお付けしますね」
そう言うと、ロズがきれいな指で、私の耳たぶに雫型のウロコイヤリングを付けてくれる。
鏡を借りて見てみると、両耳で揺れる虹色のウロコ がキラキラと煌めいていて、とっても可愛い。
耳元でシャラリ、と涼やかな音が鳴ると、回りの空気が澄んだような気がする。
虹色に煌めくかんざしは高めのポニーテールに飾っているので、よく見えないけれど、身につけた瞬間にほわりと身体が温かく感じた。
ロズにそう言うと、説明してくれた——
鯉のぼりの一番上に付いている丸い飾りを『回転球』と呼び、神様に見つけてもらう目印になっている。
回転球の下でカラカラ回る車輪を、『矢車』と呼び、矢車が風に吹かれてカラカラと音を出すと、魔除けの効果がある。
この二つの効果がある、たっくんの鯉のぼりのポールをテントの前に立てると、この世界の神様から結界を与えてもらえるらしい。
私が回転球のかんざしを身につけて温かく感じたのは、この世界の神さまに見つけてもらった証拠で、イヤリングをつけて空気が澄んだと思ったのは、回りに漂う邪気が浄化されたからなんだそうだ。
(すごい、鯉のぼりが全部便利グッズになってるよ! 無駄なものが付いてないんだね……)
「いつも何となく見ていたけど、鯉のぼりって色々な意味があったんだね!」
「そうですね。鯉のぼりは、子どもの健康と成長を祈って飾るものですからね」
ロズが嬉しそうに、得意げな顔をして頷いた。
「私たちもお守り致しますが、カレン様をお守り出来るものは、一つでも多い方がいいですから……。この前のカルパ王国に召喚された時みたいな不快な想いは、カレン様に二度とさせません」
可愛くて美少女みたいだけど、すごく男前なロズは、そう言ってにっこりと笑った。
目の前はすっかり片付いて、出発する準備は整った。
四人で彷徨いの森を抜けて、元の世界に戻れるという『登龍門』を目指して、出発しようと思う。