彗星航路
第1話
春の嵐が、桜の樹から花びらを巻き上げた。その風は、同時に私のうなじを撫でる。
……スースーする。春休みの間にバッサリ切ったロングヘアを惜しんでいるわけではなかったけれど、お風呂に入ったりこうして風が吹くたびに、必死に伸ばした長い髪がなくなっていることを実感する。
「あーおーいー!」
そのままぼんやり佇んでいると、梨穂がブンブンなんて聞こえてきそうな勢いで手を振りながら駆け寄ってきた。高校デビューをするのだと息巻いていた梨穂は、春休みの間にショートの髪を茶色く染め、軽くウェーブをかけた。小動物のような可愛らしい顔には似合わない髪型なんてなく、なんなら今回の髪型は今まで一番よく似合っていて、見る度に羨ましいと思う。
「あー、碧衣、あの口紅つけてないの?」
私の顔を覗き込んだ梨穂は、自分の唇を指差しながらちょっと眉を寄せてみせる。その口紅は梨穂とお揃いで買ったものだった。
「入学式だから」
「入学式だからつけるんじゃん」
校則で禁止されているわけではないけれど、高校生になっただけで何が変わるわけでもないのに、お化粧をする気にはなれなかった。自分にお化粧が似合うとも思わないし――。
「しかもみんなの前に立つんじゃん?」
「みんなの前にも立つからだよ」
代表挨拶のために登壇するし。
溜息交じりに受付に行くと、座っている3年生の先輩が「わ」と小さな声を上げた。
……スースーする。春休みの間にバッサリ切ったロングヘアを惜しんでいるわけではなかったけれど、お風呂に入ったりこうして風が吹くたびに、必死に伸ばした長い髪がなくなっていることを実感する。
「あーおーいー!」
そのままぼんやり佇んでいると、梨穂がブンブンなんて聞こえてきそうな勢いで手を振りながら駆け寄ってきた。高校デビューをするのだと息巻いていた梨穂は、春休みの間にショートの髪を茶色く染め、軽くウェーブをかけた。小動物のような可愛らしい顔には似合わない髪型なんてなく、なんなら今回の髪型は今まで一番よく似合っていて、見る度に羨ましいと思う。
「あー、碧衣、あの口紅つけてないの?」
私の顔を覗き込んだ梨穂は、自分の唇を指差しながらちょっと眉を寄せてみせる。その口紅は梨穂とお揃いで買ったものだった。
「入学式だから」
「入学式だからつけるんじゃん」
校則で禁止されているわけではないけれど、高校生になっただけで何が変わるわけでもないのに、お化粧をする気にはなれなかった。自分にお化粧が似合うとも思わないし――。
「しかもみんなの前に立つんじゃん?」
「みんなの前にも立つからだよ」
代表挨拶のために登壇するし。
溜息交じりに受付に行くと、座っている3年生の先輩が「わ」と小さな声を上げた。
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