彗星航路
中学のときは必ず一緒に食べていたのに、きっと私が志彗先輩に夢中になっていたせいだ。
「てか今週のジャンプ読んだ? 最近もう現代アートみたいでついてけないって思ったからいっそのこと現代アート勉強したら分かるんじゃないかって思って」
「それついていけないのが現代アート感あるだけじゃね」
「おいやめろよ、理屈っぽい男はモテないんだぞ。ねー、碧衣ちゃんはさ――」
「あの」
志彗先輩とは話したい。でも、私を気遣った梨穂が一人になるのは悪い。梨穂を呼べばいいかもしれないけれど、“志彗先輩に気を付けて”と言っていた梨穂にとってはここに呼ばれるほうがきっと迷惑だ。
「すみません、友達とお昼を食べる約束をしているので、ひとまず今日は、友達と一緒に食べてきていいですか」
志彗先輩と赤岩先輩は、一瞬固まった。
「なんだそうだったの? ごめんごめん、いいよー」
「急に来て悪いのこっちだからな」
まだ食べていないパンの袋をかき集めて「次は予約して来るね」「そこは約束だろ」と嵐のように先輩達は去って行った。悪い人達ではないのは分かった。
「ごめん梨穂、お昼一緒に食べるよね?」
梨穂の前の席に座ると、きゅるんと丸い目が見上げてきて、そのまま嬉しそうに細くなる。
「うん、食べよ」
次は約束して来るって言ってたけど、そのときには梨穂も一緒に食べる? そう訊こうとして、
「よかったあ、あの志彗先輩達、怖くて近づけなかったから」
続くセリフに、一度言葉を呑みこんだ。