彗星航路
第3話
ガタン、ガタンと電車が揺れる。本のページを捲ろうとしたとき、隣からヒュッと不自然な呼吸が聞こえて視線を向けた。
それが何なのか気付いて、そっとスマホをカバンに戻した。電車がゆっくりとスピードを落とし、やがて止まる。
「イテテテテッ!」
「《一色駅、一色駅――》」
扉が開く少し前に手首を掴んで捻りあげると、降車しようとしていた人達が一斉に振り向く。手首の持ち主はどこにでもいそうなスーツ姿のおじさんで、何も言っていないのに既に言い訳でも始めそうな雰囲気で私を睨んでいた。
「なにかね、離しなさい!」
「一緒に来てください。痴漢ですよね」
人々がざわめき、私の肩ほどもない頭が、隣で震えるように揺れた。おじさんを冷ややかに見下ろしていると、そのぎょろっとした目が隣の子を睨み付けた。
「そんなわけないだろう、自意識過剰なんだよ! ちょっと当たったのを勘違いでもしたんだろ!」
痴漢をされたのは、知らない子だけれど同じ制服を着ている子だった。真新しい制服に毛玉ひとつないカーディガンを着て、リュックをぎゅっと大事そうに抱えて、今にも泣きそうな顔をしている。
「は? なにを言ってるんですか?」
きっと同じ一年生で、入学してたったの一ヶ月も経っていない。それなのにこんな怖い目に遭わせて、しかも自意識過剰呼ばわりだなんて。
「あなた、私のスカートの中に手を入れましたよね?」
「は?」
私に手を掴まれて痴漢呼ばわりされながら別の子を被害者呼ばわりするなんて、語るに落ちたとはこのことなのだけれど、それはそれとしてその子が被害者として注目を浴びたくないのは一目瞭然だった。
「君……、君そうか、女の子――」
そこで初めて気付いたのだと知り、舐められないために腕を握る手に力を込めてしまった。
それが何なのか気付いて、そっとスマホをカバンに戻した。電車がゆっくりとスピードを落とし、やがて止まる。
「イテテテテッ!」
「《一色駅、一色駅――》」
扉が開く少し前に手首を掴んで捻りあげると、降車しようとしていた人達が一斉に振り向く。手首の持ち主はどこにでもいそうなスーツ姿のおじさんで、何も言っていないのに既に言い訳でも始めそうな雰囲気で私を睨んでいた。
「なにかね、離しなさい!」
「一緒に来てください。痴漢ですよね」
人々がざわめき、私の肩ほどもない頭が、隣で震えるように揺れた。おじさんを冷ややかに見下ろしていると、そのぎょろっとした目が隣の子を睨み付けた。
「そんなわけないだろう、自意識過剰なんだよ! ちょっと当たったのを勘違いでもしたんだろ!」
痴漢をされたのは、知らない子だけれど同じ制服を着ている子だった。真新しい制服に毛玉ひとつないカーディガンを着て、リュックをぎゅっと大事そうに抱えて、今にも泣きそうな顔をしている。
「は? なにを言ってるんですか?」
きっと同じ一年生で、入学してたったの一ヶ月も経っていない。それなのにこんな怖い目に遭わせて、しかも自意識過剰呼ばわりだなんて。
「あなた、私のスカートの中に手を入れましたよね?」
「は?」
私に手を掴まれて痴漢呼ばわりされながら別の子を被害者呼ばわりするなんて、語るに落ちたとはこのことなのだけれど、それはそれとしてその子が被害者として注目を浴びたくないのは一目瞭然だった。
「君……、君そうか、女の子――」
そこで初めて気付いたのだと知り、舐められないために腕を握る手に力を込めてしまった。