彗星航路
「……おはようございます」
その美しさに胸を打たれていることに気付かれないよう、必死に取り繕った。志彗先輩はこれっぽちも気づいていなさそうに「おはよ。今日もクールだね」と笑って、その頭を私よりさらに頭一つぶん高いところに戻す。
「こんな時間にどうされたんですか?」
「学校メンドくさいなーって思ってたら碧衣ちゃんが見えたから、じゃ一緒に行こっかなと思って」
理由にも説明にもなっていなかった。ただ、志彗先輩は私の隣を歩き続けるので、先輩と一緒に学校に行くことができるという思わぬ幸運を噛みしめていればどうでもよくなった。
……思わぬ幸運。浮足立っている自分に気付き、頭を振った。これは、先輩と仲が良いという憧れの高校生活らしさに対するそれだ。
「碧衣ちゃんはどうしたの?」
「痴漢騒ぎがあって捕まっていたんです」
「マジ、碧衣ちゃんに痴漢しやがるとかどんな度胸の持ち主?」
ああ、やっぱり、私の見た目だと、百歩譲って女子に見えたとしても屈強なタイプだとは思うだろうな。志彗先輩相手でも、そんな諦念を抱いてしまう。
「いえ、私は被害者ではなく目撃者でして」
かくかくしかじか、経緯を話すと、志彗先輩は「あー、女子高生がすげーみたいに話してるの聞こえたの、それ痴漢で、しかも碧衣ちゃんの話ね?」どうやら騒ぎだけは耳にしていたようだ。
「すげーよね、痴漢見つけて捕まえるとか」
「偶然です。以前相談されたことがあったので、その気配が分かるといいますか」
中学生のとき、部の後輩に相談されたことがあった、決まって通学時間に遭うので怖い、と。志彗先輩は「気配ってなに、武士なの?」と笑う。