彗星航路
「……一組の星谷碧衣です」
「一組の細尾梨穂ですー」
感嘆の続きは、私達が受付を去った後に「さっきの子、かっこいー」「めちゃくちゃきれいな顔した男子かと思った」と後ろから聞こえてきた。
「さすが碧衣、三年のお姉様を虜にしてるとか」
「してないのに」
「春休みに入ってまた背伸びた?」
「……いま一六七センチ」
「わ、私といま理想の十五センチ差」
梨穂は一五二センチしかないんだ。すぐに引き算をした頭には、同時に自分達が並んで歩く図が浮かんだ。するりと縦に長い自分の隣に立った梨穂は、ますます小動物のようで可愛らしいだろう。
星谷碧衣、身長は一六七センチ、なおまだ成長期。体重は知らないけれど、細い自覚はあるので、多分身長のわりに軽いほう。胸は平らというほどではないけれど、中学のブレザーと組み合わせると最悪としか言いようがなかったくらいには未発達だ。梨穂の「胸が邪魔でウエストが見えない」という悩みを初めて聞いたときは、青天霹靂と言っても過言ではなかった。
そこに女顔の父、男顔の母からの遺伝子を引き継いで出来上がった顔は女にしては男っぽく、感情の起伏も出にくい。そこにトドメとばかりに“アオイ”というユニセックスな名前がくれば、立派な男子のできあがりだった。
だから高校は制服で選んだ。地元では可愛いと有名なネイビーに臙脂のラインが入ったセーラー服のところだ。それでも、私が着るとまさしく海軍の制服というほかないのだから、馬子にも衣裳なんて嘘っぱちだ。
「えっ、アオイ髪切ったの?」
「うん、一昨日バッサリ」
「ヤッバイ、超似合う、超イケメン」
「アオイくん付き合ってほしー」
「しかも代表挨拶すんでしょ? カッケー」
「アオイくんのせいでぜーんぜん男子がカッコよく見えないんだけど、どーしてくれんだよお」
中学のときの友達に肩を叩かれ、笑いながら席に着く。背筋を伸ばして座ると、他の子達よりも頭一つぶん大きい気がして、こっそりと肩を丸める。