彗星航路

「アオイ、まだ腹筋割れてる?」

「なに急に」

 男子部員が聞いていないか、視線で確認してしまう。腹筋が割れた女子だなんて、志彗先輩に知られてしまったらどうしよう。

「春休み挟んだらお腹ぽよっちゃって。中学のときウエストだけは太らなかったのに、最悪」

「割れてるよりよくない?」

「割れてほしくはないんだけど、ぽよってほしくもないっていうか。もともと太りやすいし、私。あ、でも、アオイの腹筋は割れてていいと思う、キャラ的にも」

 手ぬぐいを取った彼女は男子みたいに髪が短いのだけれど、それでも私よりも女の子らしかった。

 胃の痛みは、次の日になると消えていた。でも学校へ行くと、痛いというほどではないけれどなんとなく重たい感じがする。それが家に帰る頃には消える。そんなことが数日続いた。

 ……なんか、胃が重たくてやる気出ない。

 授業中、そうぼんやりとしていたせいで、当てられても答えられなかった。数学は得意なのに、私としたことが。

「碧衣、なんか調子悪い?」

「そんなことないよ、たまたま考え事してただけ」

 返事をしながら、お弁当を口に運ぶ。食欲がないわけでもない。

 「胃」「変」「原因」で調べると、インターネットには「ストレス・自律神経の乱れ」と言われた。高校生になって、もう一ヶ月も経とうというのに、まだ新しい場所に慣れていないのだろうか。

 じゃあ、しばらく休めばよくなるかな。新入生代表挨拶も緊張したし、私の体は自分で思っているより疲弊してしまっていたのかもしれない。明日からゴールデンウィークだし、ちょうどいい。そう思っていた。
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