彗星航路
好きにしてくれればいい、と私はスマホを手に取り「新着メッセージ1件」に気が付く。
〈シスイ:気にしないでいーよ。どうでもいいけどカタイね笑〉
「あっ……」
「なに、これだめ?」
「エロ本?」
「どれでもいいから早く持って出て行って!」
二人を追い出してから頭を抱えた。誤送信ではないけれど、誤送信してしまった。
トークを開くと、志彗先輩からの返信は、私が送信して一分も経たないうちにきていたようだ。志彗先輩にとっての即レスとはどんな意味を持つのか、そして微妙に返事に困る終わり方には何を返せばいいのか、またスマホを持ったまましばらく固まってしまった。
〈星谷:先輩に対する当然の礼儀です〉
「わ、既読ついた」
トーク画面を開いたままだったとは思えないけれど、少なくともすぐにLINEを開いてくれたのは間違いない。
なんて返事がくるだろう。このまま雑談をする流れだろうか。何を話すだろう。志彗先輩は親か親戚に弁護士がいるんですかとか訊いてもいいだろうか。訊けそうな流れになったらどう訊こう――。
悩む私の前に、ポン、と現れたのは「うんうん」と頷く犬のスタンプだった。
「ざっ……つ……!」
そうして、志彗先輩の謎は知らないままとなった。
代わりに、しばらく続いていた胃の違和感がなくなった。