彗星航路
入学式が始まり、校長先生が終わり、PTA会長の挨拶が終わり……と時間が経つにつれ、胸の鼓動は少しずつ大きくなる。
「《新入生代表、星谷碧衣》」
「はい」
それは名前を呼ばれたときに頂点に達した。でもみんなは「やっばい、アオイ超落ち着いてる」「慣れっこだもんね」と口々に誉めそやす。本当は緊張で眉一つ動かせないだけなのだけれど、みんなはそれをポーカーフェイスだと善意解釈してくれる。
挨拶を終え、入学式を終え、教室に向かうときもそうだった。みんなが「アオイくん格好よかったよ」と口を揃える。
入学式後のホームルームの後も、そう。簡単な自己紹介を終えた後、新しいクラスメイトの女子から「アオイって呼んでいい?」「すっごい顔きれいだよね」「イケメンと同じクラスになったってめっちゃテンション上がっちゃった」と口々に言われた。
「アオイくんと同じクラスかあ」
少し離れたところから、男子の声も聞こえた。
「なに、あのイケメンと知り合い?」
「同中なんだけど、それだよ、マジイケメンなんだよ、星谷碧衣は」
「学年トップの優等生、元生徒会副会長、元剣道部主将、体育祭でもヒーロー」
「んでもって性格もイケメン。中学のとき、しつこくナンパされてる後輩女子を助けたとか、カツアゲ野郎をとっちめたとか」
「あとひったくり捕まえて表彰までされたこともあんだよ」
その口の端に上るのは誉め言葉、なのだけれど。
「同じクラスに自分よりイケメンの女子がいるって、最悪だよな」
――男子が決まっていうのは、そのセリフだ。