彗星航路
まつげ、長い……。色白で、毛穴もなくて、二年生の男子なのにひげもない。見かける三年生にはおじさんみたいな髭面の人もいたのに、二年と三年だと違うのか、それとも志彗先輩の顔がきれいなのか。
「あー、もうほとんど終わってんだ、優秀だね」
「一年のときって大体終わり遅くなんだよな」
「分かる、三年が待ってるとことか怖くて並べないし」
「お前は怖がってねーだろ」
じっと志彗先輩の顔を見つめてしまっていた私は、そこではたと、記録ボードを見られていることを思い出す。
「あれ」
慌ててボードを胸に抱え込むと、バンッと音が響いた。平らな胸にはわりと痛かった。
「どしたの、別にスリーサイズとか書いてなくない?」
「いえそういうわけではないです」
なんならスリーサイズのほうがマシかもしれない。胸囲が脂肪と筋肉どちらでできているかなんて、数値からは分からないのだから。
「むしろ碧衣ちゃん、点数良さげじゃん? 女子でシャトルラン七十回って結構なんじゃないの」
「いえちょっと待――」
やっぱり見られていた。ひょいとボードを傾けられ、慌てて胸に抱え込みなおそうとして、ガランッとボードが落ちる。拾ってくれたのが赤岩先輩なのは不幸中の幸いだった。
「ありがとうございま――」
「……星谷さん、握力、スゲェ強いね」
……不幸中の幸い、だったのに。一番見られたくない数字を見られて硬直した。その隙に志彗先輩にも見られてしまった。