彗星航路
……みんな? 思わぬ外野の出現に、声のしたほうに顔を向けた。
これから一年間一緒に過ごすクラスメイトで和気藹々としていたところに、彗星のごとくやってきて廊下から顔を覗かせていたのは――空のような水色の頭だった。
教室の空気が凍り付いた。だって水色の髪だ。金でも銀でもなく――いや金でも銀でもおかしいのだけれど――まるで天空のように透明感のある水色。しかも、その人はもちろん、一緒にやってきた友達も含め、揃ってティシャツの上にシャツを羽織ったかのようなだらしない服装に、耳を貫く派手なピアスをしていた。あまりに派手な雰囲気のせいで、学ランの金のボタンまで装飾のひとつに見えた。
どう見ても、一年生ではないこなれた雰囲気がある。その一人は、ぐるりと教室を見渡した。
「あれ? イケメンいなくね? もう帰ったの、新入生代表挨拶したホシヤアオイくん」
標的は、私だった。名前を呼ばれた瞬間にドッと心臓が跳ね上がったけれど、名前まで呼ばれて黙ってやり過ごせるはずがない。
「……星谷碧衣は、私です」
教室の真ん中、やや窓側寄りの席で、手を挙げた。
モーゼの海割りのごとく、その水色の頭の人と私との間には人がいなくなった。
「え、女子じゃん」
「……女子ですよ」
セーラー服を着ているからそう言われたのだろう。私はそうとしか思わなかった。でもその先輩は破顔した。
「なァんだあ、俺のほうが全ッ然イケメンじゃん!」
なんとも馬鹿馬鹿しい話なのだけれど、それが、私が雲雀志彗先輩を好きになってしまった瞬間で、しかも私は、自分が恋に落ちたことになど全く気が付いていなかった。