彗星航路

第2話

 雲雀(ひばり)志彗(しすい)先輩は、その親友の赤岩(あかいわ)七瀬(ななせ)先輩と揃って学校の有名人らしかった。

「普通科のシスイ先輩ね、二年で一番イケメン」

「でも二年で一番バカ」

「え、それって七瀬先輩のほうじゃないっけ」

「そうだっけ? どっちでもいいよ、私、七瀬先輩派だけど」

「そうそう、志彗先輩派か七瀬先輩派かで割れてる」

「二人とも、普通科指折りの問題児らしいよ。マジイケメンだけどマジ関わったら身の破滅」

「だから気を付けてね、アオイ!」

 三年生のお姉ちゃんから聞いたという梨穂に力強く言われて「そうだね」なんて頷いたけれど、私の内心はそれどころではなかった。

『なァんだあ、俺のほうが全ッ然イケメンじゃん!』

 昨日から何度も何度も、私はそのシーンを頭の中で反芻(はんすう)してしまっていた。

 薄氷を思わせる水色の髪。少し凛々しい眉と、それとは裏腹に女の子みたいに可愛いぱっちり二重にぷっくり涙袋の目。まさしくここにこの形でとしか言いようのないほどきれいに収まった高い鼻と、破顔して大きく開いた口。思い返してみればその顔は“イケメン”で、でも私にとってはそんな一般論とは無関係に、私が今まで見た顔で一番格好いいと思った。だからなのだろうか、かきあげた前髪から額にかかっていた数本まで、すべてが脳裏に焼き付いている。

 あの後、知らない先生がやってきて「補習中に逃げるな!」と怒って連れて行ってしまったせいで、あれ以上の会話はなかった。あれが誰なのか誰も知らなかったし、困惑しっぱなしで入学初日を終えるしかなかった。

 そして今日になってようやく分かった。普通科二年生の雲雀(ひばり)志彗(しすい)先輩、二年で指折りのイケメンにして問題児、帰宅部、当然委員会活動もナシ。
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