彗星航路
接点、作れないなあ。そう考えて、自分が接点を欲しがっていることに気が付いた。確かに今まで会った中で一番格好いいけれど、だから仲良くなりたいだなんて浅ましいというか卑しいというか。自分にそんなミーハー心があったなんてびっくりだと、そんなことを考えながら午前中を過ごした。
「あーおーいーちゃーん! あーそーぼ!」
その昼休み、スターンと開いた窓と飛び込んできた満面の笑みに、凍り付いた。
やってきたのは、例の雲雀先輩だった。接点が欲しいとは思っていたけれどこんな速さと勢いだとは思わずに固まったままでいると、赤岩先輩が「ほら、だから可哀想って言ったろ」としかめ面になる。
「ゴメンゴメン。でも気になっちゃってさ、アオイちゃん」
「俺じゃなくて本人に謝ってやれば?」
「ごめんねー、アオイちゃん! あそぼー!」
こんなにも心のこもっていない謝罪を受けたことがなかった。後輩に痴漢をしたサラリーマンのおじさんのほうがまだ申し訳なさそうな顔をしていた。
呆然としている間に雲雀先輩と赤岩先輩はドカドカと教室に入ってきて、私の席の周辺の子達が畏れ慄き立ち上がったのをいいことに、私の前の席に腰を下ろす。
「やっほう、アオイちゃん。今日も可愛いね」
そしてあっけらかんと――私が切望する一言を、まさしく可愛らしいほどの満面の笑みで言ってのけたのだ。
たまには可愛いって言われてみたいな――口にはとても出せないほど乙女チックで繊細で淡い欲望が、こんなにも雑な形で叶えられてしまった。もちろん、“好きな人に可愛いと言われたい”なので半分は叶っていないけれど。
「俺はね、一応名乗ると二年で一番イケメンの雲雀志彗先輩。どうせ誰かから聞いてるよね。志彗先輩って呼んでくれていいよ」
「……はあ」
シスイ先輩……。顔には出さなかったけれど、男子はおろか先輩を名前で呼んだことなんてないので、その響きだけで少しドキドキした。