彗星航路
「こっちはね、二番目にイケメンの赤岩七瀬」
「失礼な他己紹介をどうも」
まったくもってそのとおりだった。私の主観を抜きにすることができれば、多分赤岩先輩は志彗先輩と系統の違うイケメンで、どちらのほうが良い悪いという部類にはない。切れ長の目といい薄い唇といい、全体的に涼やかな印象のある顔だ。なお、その頭は真っ黒かと思えばその内側に金のメッシュが見えたし、耳にはその表面積が通常の半分以下なんじゃないかと思えるほどの穴が空いていた。
「ね、アオイちゃん、先輩達とお昼ご飯一緒に食べない? 学食案内したげるから」
「いえ、お弁当を持ってますので」
「えー」
明日は学食にしたいとお母さんに伝えよう。固く決意した。
「じゃあここで食べよっか」でも志彗先輩は私の前の席に座った。
「星谷サンだっけ? イヤなら断ったほうがいいよ」言いながら赤岩先輩も座り込んだ。
「……すみません、これは一体どういうことですか?」
「んー、話すと長くなるんだけどね」
志彗先輩は我が物顔で机の上にパンを並べる。学食を案内してあげると言ったくせに、コンビニで既にパンを買っていたようだ。
「一年にめちゃくちゃイケメンがいるって聞いたから興味本位で見にきたけどただの可愛い女の子で、でも俺のほうがイケメンだなって言って終わっちゃったからこのままだとヤな感じの先輩だなと思ってフォローしにきた」
話は短かったけれど、訳は分からなかった。しかし都合のいいことに私は、“ただの可愛い女の子”をしっかりと脳内でリピートした。
「アオイちゃん、緊張してる? それともいつもそんなクールな感じ?」
「いつもです」
初対面の人と、なんなら男子と話すときはいつだって必要以上に緊張している。男兄弟がいたら慣れていて当たり前だと言う子もいたけれど、私に言わせれば家族に性別はあってないようなものだった。