彗星航路
「てかアオイちゃんて名前どう書くの?」
「紺碧の“碧い”に衣です」
「え、マジ、めっちゃきれいじゃん」
“めっちゃきれい”……。絶景を見て息を呑むような言い方とその表情が、胸に突き刺さった。
赤岩先輩が立ったままパンをかじりながら「てかアオイって誰かいたよな」と首を傾げ、志彗先輩が「花宮センセだろ」と即座に答える。
「ああそっか。あの人の名前もアオイなんだよな」
「もしかして二組の担任の先生ですか?」
「そうそう、よく知ってんね」
ときめいていたのも束の間、思わぬ同名にわりと愕然とした。
花宮先生は、若くて美人な英語の先生だ。隣のクラスから出てくるのを見て、その長いポニーテールも含めて「きれいな先生だな」とは思っていたけれど、まさか、花宮先生の名前も“アオイ”だなんて。しかも何がイヤかって、花宮先生は私と違って圧倒的に小柄なのだ。多分、その身長は梨穂と大差ないだろう。
片や男みたいなデカいアオイ、片や美人で小柄なアオイ。生徒と教師とはいえ、男子がそう比べるのが頭に浮かぶようで、一人でがっくりと肩を落とした。
「あー、分かる分かる、名前かぶんのって複雑だよね」
「分かんねーだろ、どこにシスイなんて名前がいんだよ」
「お前ナルト読んでねーの? 自分の名前が悲劇の忍者として出てきたときの気持ち分かる?」
「分かんねーわ、二次元と三次元の区別がつかないヤツの気持ち」
「区別つけたうえで複雑な気持ちになってるんだよ」
ふと、梨穂が全くといっていいほど会話に参加していないことに気が付く。いや、そもそも梨穂はここに来ていなくて、自分の席でそっとお弁当箱を開こうとしているところだった。