そして外交官は、契約妻に恋をする
「ロンドンかー、行ったことないけど、本当に霧が多いのかな」

「どうだろうね」

「三年だっけ? たまにはこっちに帰ってくるんでしょう?」

「うん。そのときは会おう? お土産たくさん買ってくる」

「きゃー今から楽しみ」


 瞳を輝かせるリエちゃんと微笑み合うも、実は一年で離婚するんだけどね、と心の中で苦笑した。

「じゃあね香乃子。また進展あったら聞かせてね」

「わかった。またね」

 楽しいランチタイムが終わり、リエちゃんと別れて彼女の後ろ姿を見送ると、深い溜め息が漏れた。

 親友のリエちゃんにも、この結婚は政略結婚だとは言えなかった。

 彼女はきっとごく普通のお見合いだと思っている。彼女のご両親は大恋愛の果てに結婚したそうだ。父親は職を転々としていて貧乏だと言うが、一度訪問したときに私は彼女がとても羨ましかった。

 聞いていた通り年季を感じるマンションだったし部屋も狭かったけれど、ご両親も彼女の妹も皆リエちゃんのように明るくて、幸せ溢れる温かい空気に包まれていた。

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