そして外交官は、契約妻に恋をする
 今日は最終日の夜。ようやくふたりきりで迎えた東京の夜だ。

 少しでもゆっくりできるように、食事はルームサービスにした。

「お疲れ様」とグラスを合わせる。

「気のせいかロンドンで仕事をしているときよりも疲れたよ」

「私も。せっかく帰ってこれたのに」

 あははと笑い合って思った。私たち夫婦の居場所はロンドンなのだ。ここ東京ではない。

 ワインを傾けて、東京の美しい夜景を見下ろし、そっとキスを交わす。

 かつてないほど切なさに心が震える。

 彼は私の頬を撫でた。

「香乃子、なんとなく顔色が悪い気がするが大丈夫か?」

 心配そうな彼に、笑って答える。

「ちょっと疲れただけ」

 そして私は話を切り出した。

「真司さん、私どうしても用事ができてしまって、ごめんなさい。私は後からロンドンに帰ります」

 ハッとしたように彼の表情が歪む。

「急用?」

「仲のいい友達が結婚するの。一度は断ったんだけどやっぱり参加したくて」

「そうか……。わかった。どれくらい遅れそう?」
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