そして外交官は、契約妻に恋をする
「うーん――。チケットが取れたら連絡します」
何でもないことのようにサラリと告げる。
「わかったよ。しっかり充電して帰ってきて」
待っているからと、彼は私の額にキスをした。
明くる日、空港まで見送りに行きたかったけれど、大丈夫という彼の言葉に甘えてホテルで見送った。
泣かずに見送れる自信がなかったから、ちょうどよかった。
友人の結婚式は本当だ。でも私は二次会に顔を出すだけ。
急いで住むところを決めて、少し落ち着いたらエアメールで離婚届を送る。
彼はまだ気づいていないだろうが、大事なものは今回の帰国に持ってきてある。大事なものとは言っても、いざとなるとたいしたものはなかった。
パスポートとお財布の中にはいるようなカード類以外にはなくても困らない。この身ひとつ。これからは自分の力だけで、自分の身の丈に合った生活をしていこう。
ふと、着物姿の李花さんを思い出した。