そして外交官は、契約妻に恋をする
 大晦日、神宮寺家に彼女が来ていた。華道の家元である彼女のお母さまとふたりで、床の間に大きな正月用の生け花を生けていた。

 彼女も彼女のお母さまも着物を着ており、袖が邪魔にならないように襷掛けにしてエプロンをつけていた。動きづらいだろうに着慣れているからなのか、美しい所作のまま作業を続けていた。

『こんな押し迫った大晦日になってしまって、ごめんなさいね』

『いえいえ忙しいでしょうに、ありがとうございます先生』

 広い床の間にぴったりの、松を中心にして赤や金銀の水引が躍動する見事な生け花だった。

 真司さんさんも『すごいな』と感動していて、李花さんもうれしそうだった。

 そしてたまたま聞いてしまったのだ。神宮寺のお義母様を『おかあさま』と呼ぶ李花さんと、『李花ちゃんがお嫁さんだったらよかったのに』というふたりの会話を。

『そうなったときは、よろしくお願いしますね、おかあさま』

 そこまで聞いて慌ててその場を離れた。

 神宮寺家にとって、私は邪魔者だった。

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