そして外交官は、契約妻に恋をする
 それも当然で、桜井家でも価値のないと言われていた私が、急にどこかで必要とされるはずもない。

 どんなに一生懸命頑張ってみても必要とされなければ意味がないと、あきらめを知っている私は、無理を通すつもりはないが、ただ……。

 真司さん、私は心からあなたが好きだった。それが悲しい。

 パーティーで真司さんとダンスを踊り、キッチンで笑って、看病されて看病して、体を寄せ合い愛し合った。

 彼を想うと、胸が張り裂けそうになる。恋がこんなに切なくて苦しいなんて、私は知らなかった。

 でももう忘れなければ。

 すべてはロンドンの霧の中に消えた、儚い夢なのだから。




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