そして俺は、契約妻に恋をする


▼香乃子



 ロンドンの公園の桜はもう少し先だろうか。

 淡いピンクに染まるソメイヨシノを見上げながら、ふと懐かしく思った。

 月日が経つのは早いもので、彼に離婚届を送ってからもう一年以上経った。

 なにしろこの一年は嵐のような日々だったから、あまり振り返る余裕もなかった。
 ある意味それでよかったのかもしれない。

 舞い降りた花弁がベンチの上に落ちる。

「ほら、見てごらん、これが桜の花びらだよ」

 私の胸の中にいるこの子は私と真司さんの子ども。

 女の子で、名前は真倫(まりん)。真司さんの真の一字をもらってつけた。倫の字はロンドンの漢字表記、倫敦(ロンドン)からとった。

 今となっては、ロンドンでの日々が幻のように思えるけれど、真倫の存在が現実だったのだと教えてくれる。

 どんなに辛くても、あの幸せだった日々が私を支えてくれるのだ。

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