そして外交官は、契約妻に恋をする
 構えは大きくても、どこか寒々しい我が家とは違う。
 当然のように政略結婚をして、子どもにも強要する私の親は、価値観も考え方も違うのだ。

 父は家門がすべて。利益重視で、幸せとは権力と経済力があってはじめて掴めるものだと思っている。

 母は父が黒だと言えば白いものでも黒いと言うだろう。なぜなら今が幸せだからと。

 事情を知らないリエちゃんはこの結婚がうらやましいと言うが、私は外交官の妻なんて望んでいない。

 普通でいいのだ。リエちゃんの家のようにホットプレートを囲んで焼きそばを食べたり、ホットケーキを美味しいね、って分かち合いたい。

 温かい笑顔に溢れた穏やかな日常を重ねていけるなら、それだけでいい。
 私が願うのはそんな幸せだ。
 それ以上はなにも望まないのに。それがこんなに難しいなんて……。

 

 退社時間になりパソコンを閉じて卓上カレンダーを見た。

 退職の報告はどうしよう。

 月末まで二週間と二日。しかもあさってはバレンタインだ。

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