そして外交官は、契約妻に恋をする
 私にはもう真倫以外に家族はいないけれど彼女たちがいる。皆のおかげで無事に出産もできたし、今の幸せな毎日がある。

 いつかこの恩を返したい。

 途中買い物を済ませながらのんびり歩き、自宅アパートに到着した。

 ここは東京の下町。築年数は古いけれど家賃が安い割に部屋数が二つあるアパート。そこの一階、通りから奥に進んだ部屋が私と真倫のマイホームだ。

 そこで慎ましく暮らしている。

「んまー」

 ベビーベッドの中で真倫が声をあげた。

「ん? どうした? お腹が空いたかな?」

 待ちかねて泣き出さないよう素早くミルクの準備をする。

 このアパートは壁が薄い。念のために防音テントも用意してあるとはいえ心配だ。

 離婚を決意した当初、考えていたのは長く住めるマンションで、正社員として働く道を探すつもりだった。

< 110 / 236 >

この作品をシェア

pagetop