そして外交官は、契約妻に恋をする
 言い訳に用意していた理由は――私では外交官の妻は務まらなかった。

 でもそんな言い訳なんて、最初から必要なかった。私が言わなくても両親はそう思っていたのだ。

 苦笑しつつ、それでいいと安心している。

 真司さんが悪しく言われるのだけは避けたい。彼はなにも悪くないから。

 結局母には、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。新しい電話番号は教えていないし、SNSでメッセージをやり取りするだけだ。

 真倫の存在も教えていない。

 ときどき思い出したようにどこにいるのとか、お父さんに謝って帰ってきなさいとか、この一年いつも同じようなメッセージがきて、ごめんなさいと返信するだけのやり取りが続いている。

 親不孝だと自分でも思う。

 勝手に離婚して、密かに子どもを産んで、逃げ回って会いもしないなんて。

 なに不自由なく育ててもらった恩はあるし、母は父が絶対だと思っているだけで、意味もなく私を虐げていたわけじゃない。母は母なりの価値観で、ちゃんと私を心配してくれている。

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