そして外交官は、契約妻に恋をする

▽真司


▼真司

 

 さあ、これから忙しいぞ。

 成田空港を足早に歩きながら頭の中を整理する。

 香乃子が消えてから一年あまり。ようやくロンドンの任期が終わった。当初は三年の予定だったが、幸い期間が短く済んだ。これぞ天の助けに違いない。

 これから最低でも一年は東京にいる。まずはマンションを契約し、腰を据えて彼女を見つけださなければ。

 相変わらず彼女とは連絡がつかないままだ。

 日本に一時帰国をしたときになんとか会おうと試みたが、今はもうメッセージすら既読がつかない。

 最後の書き込みは半年近く前か。

【なにを言われようとも離婚する意思は変わりません】というきっぱりしたものだ。

 一度は受け入れようかとも思った。

 そんなに離婚がしたいのなら、俺が執着するのは彼女にとって迷惑でしかないのかとも考えた。

 だが、いざとなると思い出す。

 一日遅れのクリスマス。彼女と愛を確かめ合った夜。

『真司さん。私、初めてなんです。恋をしたのも、こんなに幸せなのも』

 あのときの香乃子の瞳が忘れられない。嘘だとは思えないし、彼女の言葉を信じている。
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