そして外交官は、契約妻に恋をする

 本当に幸せだったなら、なぜ俺と向き合おうとせず隠れるように消えたのか。

 必ず理由があるはずだ。

 彼女の口からちゃんと聞くまでは、離婚は受け入れないと心に決めた。あのときはまだ任期があり動けなかったが、今度こそなんとしても彼女と直接話をする。

 そして、気になることがある。

 数か月前、母が離婚について当然のように言ってきたのだ。

『ようやく自由になれたわね』

「なんの話?」

『離婚決まったんでしょ。聞いたわよ桜井さんの奥様に』

 俺は離婚の話を誰にもしていなかった。

『ちょっと待って。なにを聞いたか知らないが離婚はしない』

 電話で済む話ではない。後でゆっくり話をしようとやり過ごしたままになっている。

 母が桜井の義母から話を聞いたはわかる。しかし〝ようやく自由になれた〟とはどういう意味なのか。

 気になるのは母だけでなく、一ノ関李花もだ。

 香乃子がロンドンに戻らず、二カ月ほどが経ったバレンタイン。一ノ関李花が、ロンドンに現れた。

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