そして外交官は、契約妻に恋をする
「そんなはずはない」

「真司、いい加減にしなさい。みっともない。妻に逃げられて追いかけるなんて恥ずかしい真似はやめなさいよ?」

 妻に逃げられて、か。確かにそうだが。

「なあ母さん、李花さんにも俺が自由になったようなことを言われたんだが、どうしてだかわかるか?」

 彼女がバレンタインにロンドンに来た話は母にもしてあるが、話の内容までは報告していなかった。

「ああ、そのことね。あなた李花さんと再婚したらどう? もういいんじゃない? 一年帰って来ない妻を待ったんだもの十分義理は果たしたんだし」

「ありえない」

 どうしてそう思うのか聞いたが、母は勘違いをしているようだった。

「だってあなた、ロンドンで李花さんに待ってほしいって言ったんでしょ?」

「はあ? なんの話だよ」

 今度混乱したのは母のほうだった。

「えっ? 違うの?」

「俺が言うわけないだろう? 説得して結婚してもらった妻がいるんだぞ?」

 とにかくすべては誤解だ。香乃子と離婚する気はないと母を説得した。
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