そして外交官は、契約妻に恋をする

 幸いと言うべきか、両家ともそれきり話はしていないらしい。それぞれの思惑もありお互いに様子を見ている状態だ。

 逃げた妻を追いかける恥ずかしい男だろうがなんだろが、どう言われようと俺は構わない。とにかく彼女と話をしなければ、すべてはそれからだ。

 時刻は午後三時。突然訪問しても失礼にはならない時間だと判断し、次に桜井家に向かった。平日なので義父はいないはず。義母だけのほうが話を聞くにはむしろちょうどいい。

 とはいえ電話をかけてからでは拒否される可能性もある。母の話の様子からして香乃子が実家にいるとは思えないが、手掛かりがない以上、頼るしかない。

 そして自分の気持ちをきちんと伝えなければ。

 あれこれ考えるうち、桜井家に到着した。

 緊張してタクシーを降りる。

 とにかく謝罪をしよう。香乃子がどう説明しているかわからないが、彼女にはどんなに考えても非がない。かといって俺にも心当たりはないが、悪いのは俺だ。

 心を決めてインターホンを押し訪問を告げると無事案内された。
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