そして外交官は、契約妻に恋をする
玄関先で追い返されなかっただけでもよかったと、ホッとしつつ中に入ると義母がやや困った表情をして向かい入れてくれた。
「真司さん……」
「ご無沙汰しております。この度は混乱を招き、申し訳ありません」
「まあとにかく、お上がりくださいな」
ロンドン土産を渡し、あらためてまずは離婚の意志がないことを説明すると、意外なことに義母は喜んでくれた。
「ああ、よかった。そう言ってもらえてホッとしたわ」
「すみません」
これで香乃子の居場所さえ掴めれば大きく前進だ。
「神宮寺の奥様から聞いたんですけど最初から一年の約束というのは本当なの? 香乃子に聞くと本当だって言うし」
「誤解なんです。俺が彼女と結婚したくて、そう説得したんですが。言葉のあやというか、とにかく俺は香乃子さんと離婚する気はないんです」
義母は安心したように微笑む。
「ただね、いったい香乃子はどうしたのか、私にも居場所すら教えてくれないの」
「すると、お義母さんも彼女に会っていないんですか?」
ええ、と義母は不安そうに頷いた。