そして外交官は、契約妻に恋をする
「まさか散らかっているわけじゃないんだろう? 結婚するんだ。なにも隠すことはない」

 散らかしてはいない。いないけれども、いきなりすぎるではないか。

 あははと苦い笑いを浮かべる真司さんだって困っている。

「それはまたの機会にでも」

 彼のナイスなフォローに「え、ええ……」と、あいまいに作り笑顔を向ければ、それでこの話は終わるはずだった。

「香乃子、お誘いしなさい。その間に夕食の準備をしておくから」

 なのに今度は母まで推してきたのだ。

 お母さん、やめてよもう!

 胸の内で抗議するも声には出せず、ふと申し訳なさそうに眉尻を下げる真司さんと目が合った。

「あ、えっと……よろしかったら、どうぞ」

 もう開き直るしかない。

「すみません」

「いえいえ。お気になさらず」

 私の部屋は二階にある。

 兄は南東。私は北西の門の部屋。家族内ヒエラルキーの最下層ゆえの位置だ。

「どうぞ」

「失礼します」

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