そして外交官は、契約妻に恋をする
「奥様と一度だけね。あちらも一年だけの契約婚だったらしいと言ってたわ。それだけよ。お父さんが神宮寺からなにか言ってくるまで黙っていろって言うし」

「そう……」

 おそらくどちらが離婚を言い出すかで、責任問題になるからかもしれない。

 神宮寺家は日本サクラ商船の票が欲しい。真司さんの祖父は国会議員で、ひと月後の総選挙で真司さんの従兄弟が後継者として立候補する。日本サクラ商船の社員二万人がそのまま票になるわけではなくても、影響は大きいだろうから。

「真司さん、ロンドンの赴任が終わって、東京に帰ってきたのよ」

 ハッとして息を呑んだ。

 もしかしたらロンドン勤務があと一年伸びるかもしれないって言っていたのに。どうして短くなるの?

「香乃子。会って話をしてみなさい。この子のためにも」

 即答はできなかった。

 彼は優しい人だから、再婚したいのに私を傷つけたくなくて自分を抑えているに違いない。気になんてしなくていいのに……。

 それに、私は神宮寺家に望まれていない。

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