そして外交官は、契約妻に恋をする
「私は今幸せなの。今の暮らしで満足しているのよ」

 本心でそう言ったときだった。

 ファミレスの入り口で店内を見回す背の高い男性が目に留まった。

 驚きのあまり心臓が一瞬止まったと思う。

「真司さん?」

「ああ、来たのね。私が連絡したのよ」

「お母さん、どうしてそんな」

 母はスッと席を立ち、真司さんに手を振る。

「香乃子。とにかくふたりで話をしなさい。私は帰るわね」

「そ、そんな……」

 抗議を言う間も与えず、母は両手で真倫の頬を包み「またね」と出口へ向かう。途中、母と真司さんは短く挨拶を交わしていた。

 まさか、ここで真司さんにも会うなんて。心の準備はまったくできていないのに。

「香乃子」

 席に来た真司さんは、真倫を見て絶句している。

 動揺を隠せないまま、母が座っていた席に腰を沈めるとジッと真倫を見つめた。

「その子は?」

 なんと答えたらいいのか。

「すみません黙っていて……。あなたの子です」

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