そして外交官は、契約妻に恋をする
 申し訳ないやら気まずいやらで彼と目を合わせられず、テーブルに視線を落としたままそう告げた。

 彼は母と同じように席を立ち、真倫を間にして私の隣に座る。

 名前はと聞かれて、やはり母に答えたときと同じように答えた。

 とはいえ真司さんの字をもらったとも言えず、ただ〝まりん〟とだけ伝える。

「まりん……。まりんか。かわいいな」

 母と違うのは、彼は隣に座ったまま動こうとしないところか。

 私、真倫、そして真司さんと横並びになる。そう広くはない席なので、そこに彼がいるという状態だ。手を伸ばせば彼の手にも彼の頬にも触れられる。

 ドキドキと心臓が高鳴り、息が苦しい。

「香乃子、君は今どこにいるんだ? 君の家で話がしたい」

 断りたいのは山々だ。

 でも、ファミレスでするような話じゃない。いつかは話さなきゃいけないのだ。

 覚悟を決めて大きく息を吸う。

「この離乳食を食べてからでいいですか?」

「ああ、もちろんだ」

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