そして俺は、契約妻に恋をする
 一年か。外交官は大変だ。日本国内で引っ越しをするだけでも大変なのに、彼は世界中を飛び回らなければいけない。

「ロンドンの皆さんは、お元気でしたか?」

 私は帰国したまま一度も帰っていないから、挨拶もできないままだ。

 これナオミさんや大使夫人や、皆さんにお世話になったのにお礼すら言えず申し訳なかったと、ずっと気になっている。

「皆元気だよ、君に会いたがっていた」

「そうですか……」

「君は、元気だった? 少し痩せたようだが」

 どう返したらいいかわからず苦い笑みが浮かぶ。

「元気でした。病気もせず、ロンドンでは一度寝込んでしまいましたけど、もともと健康だけが取り柄ですから」

 私が寝込めば真倫が生きていけない。多少疲れていても必死にならざるをえなかった。

 それにお店も休業になってしまう。喜代子さんはご主人の病院の付き添いもあるし、体力があまりないらしく、仕込みからずっと働くのは無理なのだ。

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