そして俺は、契約妻に恋をする
 ある意味んな事情が私を支えてくれたんだと思う。目標もなにもなかったら、自分を労ることさえしなかったかもしれない。

「真司さん、夕ご飯食べていきますか?」

「食べたいな」

「簡単なものしかできませんけど」

「君が作ってくれるのか?」

 驚く声に振り向けば、彼の頬はうれしそうに綻んでいた。

「――期待しないでくださいね」

 ロンドンにいたときみたいに高級な食材は使えないから。

「なんでもいい。なんだってありがたいよ」

 優しい顔で、そんなふうに言われたら、どう答えたらいいかわからない。

 微笑んではみたものの、口もとはぎこちなく歪んだ。

 


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